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夕暮れの小さな精密加工工場。左手前で作業着の職人が旋盤に向かい、右側は暗い工場の壁が余白として広がっている

EARNINGS REVIEW

技術承継機構

2026年12月期 第2四半期(中間期) 決算レビュー

証券コード 319A(東証グロース)対象期間 2026年1月〜6月決算発表 2026年8月14日

上期の売上高は134億8,600万円で前年同期の2.4倍。営業利益は21億4,000万円と4.2倍になった。数字だけ見れば異常な伸びだが、この会社の場合、驚くところはそこではない。伸びのほとんどは前期に買った7社が丸半年ぶん乗ったことによる、いわば買ってきた成長だからだ。 中小製造業を次々に譲り受け、決して売らない。技術承継機構は日本ではまだ数の少ない連続買収企業で、設立から現在までに20社を傘下に収めている。今期も1月に堀越精機、3月に大崎電業社、7月に三晃技研工業と、すでに3社を加えた。 読みどころは二つある。ひとつは販管費率が18.4%から14.4%へ4.0ポイント下がったこと。会社数が倍近くに増えても本部を太らせない、という方針が数字に出た。もうひとつは通期予想を据え置いたこと。調整後EBITDAの進捗はすでに74.8%に達しているのに、会社は8月14日時点で予想を動かしていない。

売上高(中間期)

13,486百万円
+140.0%前年 5,619百万円

営業利益

2,140百万円
+317.5%営業利益率 15.9%

調整後EBITDA

2,992百万円
+191.4%通期進捗 74.8%

親会社株主帰属 中間純利益

1,573百万円
+444.9%EPS 177円81銭
連続買収企業(シリアル・アクワイアラー)とは ── この会社の設計図
会社を次々に買い、買った会社を良くして、そこから出るキャッシュでまた次を買う。これを何十年も回し続ける形態を連続買収企業と呼びます。技術承継機構が手本にしているのはスウェーデンのLifcoやIndutrade、米国のDanaherといった企業群で、たとえばLifcoはグループ275社・売上4,803億円(2025年12月末時点、1SEK=17円換算)。日本ではまだ数が少なく、会社側は初期の資金調達とチーム組成の難易度が高いことを理由に挙げています。PEファンドとの決定的な違いは、買った会社を売らないこと。ファンドは投資家に資金を返すため出口が必要ですが、この会社は永続保有を前提にしています。売らないという看板そのものが、後継者に困っているオーナーから選ばれる理由になる、という構造です。
調整後EBITDAと調整後当期純利益 ── 会社が本命に据える2つの物差し
会計上の営業利益21億4,000万円に対し、会社が重視する調整後EBITDAは29億9,200万円。差の8億5,100万円は、減価償却費5億2,700万円・のれん償却費1億5,700万円・取得関連費用1億6,100万円・株式報酬関連費用600万円を足し戻した分です。取得関連費用はM&Aのアドバイザー手数料や買収前の調査費用で、案件を実行した期にまとめて出ます。翌期以降には出ないので、これを混ぜたままだと「買った期ほど利益が悪く見える」という妙なことが起きる。それを均すための指標です。調整後当期純利益も同じ発想で、のれん償却費と負ののれん発生益、取得関連費用などを外して株主の取り分を見ます。なお会社は今期から、取得関連費用に対象企業の調査費用を含める形に定義を広げ、株式報酬関連費用も新たに調整項目へ加えています。
のれんと負ののれん発生益 ── 上期の純利益に乗った4億5,000万円
会社を買うとき、支払った金額が相手の純資産を上回れば差額が「のれん」として資産に立ち、日本基準では毎期少しずつ費用として償却されます。逆に純資産より安く買えると、その差額はその期の利益になる。これが負ののれん発生益です。当上期は特別利益として4億5,000万円が計上されました。現金が入ってくるわけではなく、買った瞬間に一度だけ立つ会計上の利益です。純利益が+444.9%と跳ねた理由の一部はここにあり、だからこそ会社は調整後当期純利益の計算でこの4億5,000万円を差し引いています。ちなみに国際会計基準(IFRS)ではのれんを定期償却しません。会社が海外の連続買収企業と比較しやすい指標を並べているのは、この差を埋める意味もあります。
Net Debt / 調整後EBITDA ── 借入余力の測り方と、分母の注意点
有利子負債から手元資金を引いた実質的な借金(Net Debt)が、1年で稼ぐ調整後EBITDAの何倍あるかを見る指標です。当2Q末のNet Debtは53億3,600万円で、会社は1.33倍と開示し、適正水準とする3〜4倍にはまだ余力があるとしています。ただし分母に置かれているのは実績ではなく2026年12月期の調整後EBITDAガイダンス40億円で、前期末の1.27倍も同じ40億円で割った数字です。つまり期をまたいだ比較というより、通期の稼ぐ力に対して今どれだけ借りているかを示した数値になります。読むときはこの前提を頭に置いておくと、倍率の意味を取り違えません。
中間期の進捗率は50%が目安 ── ただし今回は当てはめ方に注意が要る
1年の半分が終わった時点なので、通期予想に対する進捗は単純にならせば50%が基準になります。会社はQ&Aで「季節性はございません」と明言しているため、この会社に関しては50%という物差しがそのまま使えます。当上期の進捗は売上58.6%、調整後EBITDA74.8%、調整後当期純利益72.4%。ただし会社はこのガイダンスを「保守的なもの」と説明しており、今期に譲り受けた堀越精機・大崎電業社・三晃技研工業の3社の影響を一切含んでいません。進捗が前倒しに見えるのは、実績側にだけ新しい会社が乗っているからでもあります。
カーブアウト ── 大崎電業社の譲受が初めてだった意味
大企業が自社の一部門や子会社を切り出して売却することをカーブアウトと呼びます。2026年3月31日、技術承継機構はシンフォニアテクノロジーから大崎電業社(電磁クラッチ・ブレーキ、スリップリングの製造、従業員70名)を譲り受けました。会社にとって初めての大企業からのカーブアウト案件です。これまでの案件はオーナー社長からの事業承継が中心でしたが、Q&Aでは事業承継以外に大企業のカーブアウトや上場企業のTOBにも取り組んでいきたいと述べています。案件の供給源がひとつ増えた、と読める動きです。

01 ── PERFORMANCE

売上2.4倍・営業利益4.2倍。利益の伸びが売上を大きく上回った理由は、本部を太らせなかったこと

売上高134億8,600万円は前年同期の56億1,900万円から78億6,700万円の増加。営業利益は5億1,200万円から21億4,000万円へ、16億2,800万円増えた。経常利益20億8,600万円、親会社株主に帰属する中間純利益15億7,300万円。1株当たり中間純利益は33円47銭から177円81銭になった。

伸びの正体は会社自身が説明している。前期の第2四半期以降に譲り受けた7グループ、つまりミヤサカ工業、サンテック産業、神田鉄工所、アルファーシステム、山泰製作所と山泰鋳工所、多賀製作所、アドバンス。これらが今期は丸半年ぶん寄与した。加えて既存のグループ会社にも好調なところが複数あった、としている。会社は買収による寄与分と既存事業の伸びを分けて開示していないので、どこまでが自力の成長かは決算資料からは分からない。ここは押さえておきたい。

売上高と調整後EBITDA ── 前年同期との比較

単位:百万円 / 2025年1-6月 vs 2026年1-6月

14,000 10,500 7,000 3,500 0 5,619 13,486 1,026 2,992 売上高 +140.0% 調整後EBITDA +191.4%
2025年12月期 中間期 2026年12月期 中間期
決算短信および決算説明資料の開示値。同じ軸で描いているため調整後EBITDAの棒は小さく見えるが、伸び率は売上(+140.0%)より調整後EBITDA(+191.4%)のほうが大きい。

利益が売上を上回って伸びた理由は、二段階に分けて見ると分かりやすい。売上総利益率は27.5%から30.3%へ2.8ポイント上がった(いずれも算出)。譲り受ける会社を高収益企業に限っている方針が効いている部分だ。だが効き方がもっと大きいのは販管費のほうで、販管費は10億3,200万円から19億4,700万円へ+88.7%(算出)。売上が+140.0%伸びるなかで販管費は倍にも届かず、売上に対する比率が18.4%から14.4%へ4.0ポイント下がった。

この4.0ポイントは、Q&Aで会社が語っている方針とぴたり重なる。譲受数が増えても大幅な人員増は想定していない、参考にしているLifcoやIndutradeも本部をリーンなまま成長させている、という説明だ。グループ会社は増やすが管理部門は増やさない。その設計が上期の損益計算書に、はっきりした形で出た。

収益性の3指標 ── 前年同期との比較

単位:% / 売上高に対する比率(いずれも算出)

30 20 10 0 27.5 30.3 18.4 14.4 9.1 15.9 売上総利益率 販管費率 営業利益率 +2.8pt △4.0pt(低いほど良い) +6.8pt
2025年12月期 中間期 2026年12月期 中間期
決算短信の損益計算書から算出。販管費率だけは棒が低いほど良い指標なので、他の2つと逆向きに読む。営業利益率の+6.8ポイントのうち、4.0ポイントは販管費率の低下によるもの。
連結(2026年1-6月)前年同期当中間期増減率
売上高5,619百万円13,486百万円+140.0%
売上原価4,075百万円9,400百万円+130.7%(算出)
売上総利益1,545百万円4,086百万円+164.5%(算出)
売上総利益率27.5%30.3%+2.8pt(算出)
販売費及び一般管理費1,032百万円1,947百万円+88.7%(算出)
販管費比率18.4%14.4%△4.0pt(算出)
営業利益512百万円2,140百万円+317.5%
営業利益率9.1%15.9%+6.8pt(算出)
経常利益522百万円2,086百万円+299.8%
特別利益9百万円635百万円
特別損失0百万円250百万円
税金等調整前中間純利益531百万円2,471百万円+365.3%(算出)
法人税等合計242百万円898百万円+271.1%(算出)
親会社株主帰属中間純利益289百万円1,573百万円+444.9%
1株当たり中間純利益33円47銭177円81銭+431.3%(算出)
中間包括利益294百万円1,639百万円+456.7%

決算短信より。営業利益と経常利益の差は営業外損益で、営業外収益1億5,900万円(投資事業組合運用益6,900万円、違約金収入3,500万円ほか)と営業外費用2億1,300万円(支払利息1億1,800万円ほか)。前年同期の営業外費用には上場関連費用2,300万円が含まれる。

02 ── QUALITY OF EARNINGS

会計上の利益と、会社が見ている利益。21億4,000万円と29億9,200万円のあいだにあるもの

この会社の決算は、営業利益をそのまま読むと本業の実力を取り違える。M&Aを繰り返す構造上、買った瞬間に出る費用と、買ったせいで毎期出る費用が損益計算書に混ざっているからだ。会社が調整後EBITDAを本命の指標に据えているのは、そこを均すためになる。

営業利益から調整後EBITDAへ ── 足し戻された8億5,100万円の中身

単位:百万円 / 2026年12月期 中間期

3,200 2,400 1,600 800 0 2,140 +157 +527 +167 2,992 営業利益 のれん償却費 減価償却費 取得関連費用・株式報酬 調整後EBITDA
決算説明資料P.5の開示値。取得関連費用1億6,100万円と株式報酬関連費用600万円を1本にまとめて表示している。前年同期は営業利益5億1,200万円に対し調整後EBITDA10億2,600万円で、足し戻し額は5億1,400万円だった。

足し戻しの4項目のうち、性質が違うものが混ざっている点に気をつけたい。減価償却費5億2,700万円は機械や設備の費用で、製造業を20社抱えていれば当然出るし、いずれ設備の更新投資としてキャッシュが出ていく。のれん償却費1億5,700万円は買収の対価が相手の純資産を上回った分の期間配分で、現金は動かない。取得関連費用1億6,100万円は、その期に案件を実行したから出た現金支出だ。足し戻しても消えるわけではないものと、会計上のルールに由来するものが同居している。

純利益+444.9%のうち、4億5,000万円は一度きりの会計上の利益

特別利益6億3,500万円のうち、負ののれん発生益が4億5,000万円、投資有価証券売却益が1億8,000万円。負ののれん発生益は、純資産より安く会社を買えたときに差額がその期の利益になるもので、現金は入ってこない。会社は貸借対照表の説明で「純資産が薄い会社もあったことが原因であり、譲受時バリュエーションには変化なし」と述べている。調整後中間純利益14億4,800万円は、この4億5,000万円を差し引いて計算されている。会計上の純利益15億7,300万円より小さくなっているのはそのためで、こちらのほうが実力に近い。

純利益から調整後中間純利益へ前年同期当中間期
親会社株主に帰属する中間純利益289百万円1,573百万円
+ のれん償却費49百万円157百万円
+ のれん減損損失
- 負ののれん発生益△450百万円
+ 取得関連費用173百万円161百万円
+ 株式報酬関連費用6百万円
調整後中間純利益510百万円1,448百万円

特別損失2億5,000万円のうち2億2,400万円は減損損失。ただしのれんの減損ではない

当上期は減損損失2億2,400万円を特別損失に計上している。前年同期はゼロだった。決算短信に内訳の説明はないが、上の表のとおり調整後中間純利益の計算では「のれん減損損失」の行が前年・当期とも空欄になっている。つまりこの2億2,400万円はのれんの減損ではなく、固定資産など別の資産に対する減損だと読める。だから足し戻しの対象にもなっていない。買った会社そのものの価値を切り下げた、という話ではない点は押さえておきたい。

03 ── GUIDANCE

調整後EBITDAの進捗は74.8%。それでも会社は通期予想を動かさなかった

2026年12月期の通期予想は売上高230億円、調整後EBITDA40億円、調整後当期純利益20億円。2026年2月13日に公表した数字から変更はない。中間期を終えた時点の進捗は売上58.6%、調整後EBITDA74.8%、調整後当期純利益72.4%。会社は「季節性はございません」と明言しているので、50%が素直な目安になる。調整後EBITDAは目安を25ポイント近く上回っている

通期ガイダンスに対する上期の進捗

2026年12月期 通期予想を100%としたときの中間期実績

中間期の目安 50% 売上高 調整後EBITDA 調整後当期純利益 58.6% 74.8% 72.4% 実績 13,486 / 予想 23,000(百万円)  実績 2,992 / 予想 4,000  実績 1,448 / 予想 2,000
決算説明資料P.3の開示値。会社はQ&Aで「季節性はございません」と回答しているため、中間期の目安は50%として読める。

ではなぜ据え置いたのか。Q&Aの回答が答えになっている。会社はこのガイダンスを「保守的なもの」と説明したうえで、1月に譲り受けた堀越精機、3月の大崎電業社、7月の三晃技研工業を含んでいない数値だと明記している。つまり分母には今期3社ぶんが入っていないのに、分子の実績にはそのうち2社が入っている。進捗率が前倒しに見えるのは、ある意味で当然なのだ。

そのうえで「通期の見通しが明瞭になったタイミングで必要なアナウンスを行う予定」としている。上方修正の可能性を否定していない書き方だ。ただし修正の時期も幅も示されていないので、期待だけ先に置くのは危うい。

ガイダンスの前提を分解しておく

  • 通期予想(売上230億円・調整後EBITDA40億円・調整後当期純利益20億円)は2026年2月13日公表のまま。前期比では売上+53.7%、調整後EBITDA+38.0%、調整後当期純利益+32.1%
  • 今期に譲り受けた3社(堀越精機・大崎電業社・三晃技研工業)の業績は予想に含まれていない
  • 期中に譲り受けた会社は、バリューアップの効果が利益に本格的に効いてくるのは翌期という説明(Q&A)
  • 配当は年間0円。増資も自社株買いも現時点で予定なし。手元資金は次の譲受のために置いておく方針

04 ── BALANCE SHEET

のれんが14億3,200万円増えて44億4,000万円へ。自己資本比率29.9%で、借入余力はまだあると会社は見る

総資産は359億6,900万円で前期末から51億4,300万円増えた。増加の中身は現金及び預金16億5,600万円、売掛金7億7,000万円、そしてのれん14億3,200万円。負債は251億1,400万円で34億9,800万円の増加、うち長期借入金が13億6,900万円を占める。純資産は108億5,500万円になり、自己資本比率は29.6%から29.9%へ0.3ポイント上がった。

のれん・有利子負債・現預金等 ── 前期末との比較

単位:百万円 / 2025年12月末 vs 2026年6月末

20,000 15,000 10,000 5,000 0 3,008 4,440 16,227 18,036 11,130 12,700 のれん 有利子負債 現預金等
2025年12月期末 2026年12月期 第2四半期末
決算説明資料P.6の開示値。現預金等は現金及び現金同等物・長期預金・投資有価証券の合計、有利子負債は短期借入金・社債・長期借入金・リース債務の合計。差引のNet Debtは50億9,700万円から53億3,600万円へ2億3,900万円の増加にとどまった。

のれんが44億4,000万円まで積み上がった。自己資本107億4,900万円の41.3%(算出)に当たる規模だ。日本基準ではこれを毎期償却していくので、当上期のように1億5,700万円ずつ会計上の利益を削り続ける。買収を続ける限りこの残高は増え、償却負担も重くなる。会計上の営業利益と、会社の言う調整後EBITDAの差が年々開いていく構造だと理解しておくといい。

有利子負債は180億3,600万円へ18億900万円増えた。ただし現預金等も15億7,000万円増えたので、差引のNet Debtは2億3,900万円しか増えていない。会社が管理指標に置くNet Debt / 調整後EBITDAは1.27倍から1.33倍へ。適正水準とする3〜4倍にはまだ距離がある、というのが会社の見方だ。ここには注釈が要る。分母の40億円は実績ではなく通期ガイダンスの数値で、前期末の1.27倍も同じ40億円で割っている。

キャッシュ・フローの形は、この会社のモデルをそのまま写している

営業活動によるキャッシュ・フローは17億7,900万円。前年同期の1億9,400万円から9倍以上になった。投資活動では14億500万円が出ていき、その中身は子会社株式の取得による支出17億2,500万円が大半を占める。定期預金の払戻6億6,400万円が一部を戻した形だ。財務活動では長期借入れで27億900万円を調達し、返済に13億5,000万円を充てて差引14億3,700万円のプラス。
稼いだ17億円と借りた27億円で、買収に17億円を払い、借金を13億円返した。残った現金は89億5,800万円から108億900万円へ18億5,100万円増えている。営業キャッシュ・フローと借入で次の買収を賄い、なお手元が厚くなる。会社が「現状はキャッシュが順調に積み上がっております」と述べている状態が、そのまま数字に出ている。

財政状態・キャッシュ・フロー前期末/前年同期当中間期増減
総資産30,826百万円35,969百万円+5,143百万円
のれん3,008百万円4,440百万円+1,432百万円
純資産9,211百万円10,855百万円+1,644百万円
自己資本9,111百万円10,749百万円+1,638百万円
自己資本比率29.6%29.9%+0.3pt
有利子負債16,227百万円18,036百万円+1,809百万円
Net Debt5,097百万円5,336百万円+239百万円
Net Debt / 調整後EBITDA1.27倍1.33倍分母は通期予想40億円
営業活動によるCF194百万円1,779百万円+1,585百万円(算出)
投資活動によるCF△1,405百万円うち子会社取得 △1,725
財務活動によるCF1,437百万円長期借入 +2,709
現金及び現金同等物 期末残高8,958百万円10,809百万円+1,851百万円

財政状態の比較対象は2025年12月末、キャッシュ・フローの比較対象は前年同期(2025年1-6月)。前年同期の投資・財務キャッシュ・フローは開示表の読み取り精度を優先して掲載を控えた。

05 ── BUSINESS MODEL

買う側の倍率と、買われる側の倍率。連続買収企業の利益はその差から生まれる

技術承継機構は自社の株価指標を決算説明資料に載せている。2026年8月13日時点でEV/EBITDAが47.3倍、PERが92.0倍。一方で譲受の対象クライテリアには「企業価値/EBITDA倍率により算定」「規律の利いた水準」と書かれ、具体的な倍率は開示されていない。中小製造業の事業承継案件で使われる倍率は一般に一桁前半とされる。安く買って、高く評価されている会社の中に組み込む。連続買収企業の利益の源泉はここにある。

この仕組みは、買った会社の利益がグループの利益として素直に積み上がる限り回り続ける。逆に言えば、市場が付ける倍率が下がるか、譲受の倍率が上がるかのどちらかで、成長の効率は落ちる。Q&Aで会社が「株式の希薄化を避けたい」「増資も株式交換も現時点では想定していない」と繰り返しているのは、この構造を守るためだ。参考にしているLifcoやIndutradeも増資と株式交換をほとんど使わずに成長した、と会社は述べている。

案件はどこから来るのか

ソーシングは350社を超えるM&Aアドバイザー、金融機関、公的機関、税理士・会計士、そして自社ネットワークから。設立から2026年6月までの累計検討案件数は2,751件で、足元は年間約500件を検討している。上場からの1年半でどう変わったかについて、会社は「信用・知名度向上により利益額及び利益率の高い案件が増加」「譲受企業における採用力強化にもつながっている」と回答している。2,751件を検討して20社。採用率にすると0.7%(算出)で、高収益企業のみをスクリーニングし再生案件は扱わないという方針が、この数字に表れている。

買った後の型も持っている。NGP(NGTG Growth Program)と呼ぶバリューアップのマニュアルで、米国Danaher社のDanaher Business Systemを手本に仕組み化したものだ。譲受直後から半年で全社員面談と現状把握、ITツール導入や組織体制の見直しといった着手しやすい施策から入り、半年から2年で事業計画の実行、3年目以降に海外展開や更なるM&Aへ進む。成功例と失敗例をもとに週次でアップデートしているという。豊島製作所では、冷間鍛造というキーワードでの検索順位を3ページ目から1ページ目へ引き上げるウェブサイト刷新や、FileMakerで自作した生産管理システムの導入、3Dプリンターで筐体を作ったIoT現場管理システムまで手掛けている。

グループ20社、従業員1,322名。特定業界への集中を避ける構成

顧客業界は超伝導・電池・研究機関・自動車から、FA機器、通信、光学フィルム、鉄道、半導体、防災、福祉まで広がる。会社はQ&Aで「特定の業界の影響を受けすぎないようグループ内での事業分散を意識しております」と説明している。ニッチでシェアの高いビジネスを選ぶ方針と合わせて、1社の不振がグループ全体を揺らさない構成を作りにいっている。ただし全社が製造業と製造業関連事業である以上、日本の製造業全体に効く波(設備投資の循環、為替、原材料価格)からは逃げられない。中東情勢と原材料高については、グループ内での調達情報の共有と各社の価格転嫁体制で「現時点では課題は顕在化しておりません」との回答だった。

06 ── RISK

借りて買うモデルの弱点は金利。会社の答えは固定金利と高い利益率

低金利で長期・原則財務コベナンツなしの借入を、企業価値に対して高いレバレッジで引く。これがこの会社の資金調達の型だ。案件ごとにSPCを組成しノンリコースローンで調達する。裏を返せば、日本の金利水準が上がっていけば、モデルの前提そのものが揺れる。

Q&Aでの回答はこうだ。今年も日銀の利上げがあったが、他国と比べて日本の金利水準が低いこと、地方金融機関に優良な貸出先が少ないことは変わっていない。既存の譲受企業の過半は固定金利で調達している。加えて譲り受ける会社は利益率が高いため、今後数度の利上げがあっても利払いは問題ない、としている。当上期の支払利息は1億1,800万円で、営業利益21億4,000万円に対して5.5%(算出)。この水準なら、たしかに当面の余裕はある。

この決算で見えていないこと

  • 既存事業の自力成長率。買収による寄与と既存グループ会社の伸びが分けて開示されていないため、オーガニックにどれだけ伸びたかは決算資料からは読めない
  • 譲受時のEV/EBITDA倍率。「規律の利いた水準」とあるだけで具体的な倍率は非開示。買う側の倍率が上がっていないかは外から検証できない
  • セグメント情報。決算短信にセグメント別の売上・利益の注記はなく、20社それぞれの業績も開示されていない
  • 2026年に譲り受けた3社の貢献額。堀越精機・大崎電業社・三晃技研工業が売上と利益にどれだけ乗っているかは示されていない
  • のれんの償却期間。残高44億4,000万円に対する償却年数は今回の資料では確認できない

もうひとつ、株主還元は現時点でない。配当は2025年12月期・2026年12月期とも年間0円で、自社株買いの予定もない。理由は明快で、新規譲受案件の持込が増えており一定のエクイティ拠出が必要になるケースもあるため、そのチャンスを逃さないようキャッシュを蓄えておく、というものだ。この会社に投じられた資金は、配当ではなく次の会社を買うために使われる。持つ側にとっては、株価の上昇だけがリターンになる設計だと理解しておく必要がある。

07 ── SUMMARY

買った成長が正しく利益になっているかは、販管費率が答えていた

売上2.4倍という数字だけを取り出せば、それは会社を買った結果でしかない。連続買収企業の決算で本当に見るべきなのは、買ったものが利益として定着しているかどうかだ。上期の技術承継機構は、そこに数字で答えた。販管費率18.4%→14.4%、営業利益率9.1%→15.9%。グループ会社を20社に増やしながら本部を膨らませなかったから、増えた売上の多くが利益として残った。

気をつけたい点も同じくらいはっきりしている。純利益15億7,300万円のうち4億5,000万円は負ののれん発生益という一度きりの会計上の利益で、会社自身がそれを外した14億4,800万円を実力値として示している。のれん44億4,000万円は買収を続ける限り増え、会計上の利益を毎期削り続ける。Net Debt / 調整後EBITDA 1.33倍という余裕を示す数字も、分母は実績ではなく通期予想だ。

通期予想の据え置きは、上方修正の含みを残した判断に見える。ガイダンスに今期3社が入っていない以上、通期の着地はガイダンスより上振れる可能性が高い。ただし会社はその時期も幅も示していない。次に見る数字は、第3四半期の販管費率だろう。20社を超えても本部が太らないなら、この会社の設計は本物だという話になる。

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