EARNINGS REVIEW
2027年3月期 第1四半期 決算レビュー
証券コード 6981(東証プライム) / 対象期間 2026年4月〜6月 / 決算発表 2026年7月31日
売上収益5,023億円、営業利益985億円。村田製作所の2027年3月期第1四半期は、増収率20.7%を営業利益の伸び+59.8%が大きく上回った。同じ7月31日、通期の営業利益予想も3,800億円から4,300億円へ引き上げている。 ただしこの決算、素直に「本業が1.6倍強くなった」と読むには引っかかる点が2つある。ひとつは稼ぎの偏りで、営業利益985億円の内訳はコンポーネント事業が1,136億円、デバイス・モジュール事業が129億円の赤字。もうひとつが【市場予想】との距離だ。アナリストの平均予想は上方修正の前からすでに営業利益4,250億円を見込んでいた。会社の引き上げは、市場がとっくに置いていた水準に追いついた形になる。
売上収益
営業利益
税引前四半期利益
親会社の所有者に帰属する四半期利益
01 ── PERFORMANCE
売上収益5,023億円は前年同期の4,162億円から861億円の増加。データセンター向けを中心にコンデンサが伸び、EMI除去フィルタがデータセンターとモビリティ向けで、インダクタがスマートフォンとモビリティ向けで積み上がった。ここに為替が乗る。対米ドルの平均レートは1ドル144円60銭から159円49銭へ、14円89銭の円安に振れた。
注目したいのは利益の伸び方だ。売上が20.7%増えるあいだに、営業利益は616億円から985億円へ59.8%増えている。売上総利益は1,727億円から2,299億円へ573億円の増加。粗利率は41.5%から45.8%へ4.3ポイント上がった。生産量が増えて固定費が薄まる操業度益と円安が効いた形で、販管費は714億円から863億円へ150億円増えたものの、売上に対する比率は17.1%から17.2%とほぼ動いていない。粗利の増加分が費用の増加を丸ごと吸収した。
売上収益と営業利益 ── 前年同期との比較
単位:億円 / 2026年3月期1Q vs 2027年3月期1Q
| 連結(2026年4-6月) | 実績 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 5,023億円 | +20.7% |
| 売上総利益 | 2,299億円 | +33.2%(算出・粗利率45.8%) |
| 営業利益 | 985億円 | +59.8%(利益率19.6%) |
| 税引前四半期利益 | 1,092億円 | +75.3% |
| 親会社所有者帰属四半期利益 | 814億円 | +63.7% |
| 基本的1株当たり四半期利益 | 44円71銭 | +66.6% |
| 四半期包括利益 | 1,036億円 | +232.3% |
利益率の改善 ── 前年同期との比較
単位:% / 売上総利益率と営業利益率
短信は増益要因として「生産高増加に伴う操業度益や円安など」と並べているが、為替の影響額は金額で示していない。前年同期の144円60銭が159円49銭になった分だけ海外売上の円換算額は膨らむ。売上の9割超が海外向けであることを踏まえると寄与は小さくないはずで、増益の全額を実力の改善と受け取るのは行き過ぎになる。通期予想の前提レートは1ドル155円で、ここから円高に振れれば同じ数量を売っても金額は目減りする。
02 ── SEGMENT
事業は大きく2つに分かれる。コンデンサとインダクタ・EMIフィルタを束ねたコンポーネント、高周波モジュールや電池、センサを束ねたデバイス・モジュールだ。売上構成は69.0%対30.2%。ところが営業利益で見ると、この2つの姿はまったく違う。
コンポーネントの営業利益は1,136億円、利益率32.5%。前年同期は712億円で26.0%だったから、規模も率も伸びた。対するデバイス・モジュールは129億円の営業赤字で、赤字幅は前年同期の80億円から拡大している。連結の営業利益985億円は、コンポーネントの1,136億円からデバイス・モジュールとその他の赤字を差し引いた残りだ。村田製作所の今回の好決算は、実質的にコンデンサ1本足で成り立っている。
セグメント別の営業利益 ── 稼ぎ手と赤字部門
単位:億円 / △はマイナス
| セグメント別 売上収益 | 前1Q | 当1Q | 前年比 | 構成比 |
|---|---|---|---|---|
| コンデンサ | 2,173億円 | 2,825億円 | +30.0% | 56.2% |
| インダクタ・EMIフィルタ | 525億円 | 643億円 | +22.4% | 12.8% |
| コンポーネント | 2,698億円 | 3,468億円 | +28.5% | 69.0% |
| 高周波・通信 | 821億円 | 861億円 | +5.0% | 17.2% |
| エナジー・パワー | 358億円 | 348億円 | △2.7% | 6.9% |
| 機能デバイス | 248億円 | 305億円 | +23.0% | 6.1% |
| デバイス・モジュール | 1,426億円 | 1,514億円 | +6.2% | 30.2% |
| その他 | 37億円 | 41億円 | +10.0% | 0.8% |
| 売上収益 計 | 4,162億円 | 5,023億円 | +20.7% | 100.0% |
この事業の売上は+6.2%と、連結の20.7%に遠く及ばない。内訳を開くと事情が見えてくる。売上の柱である高周波・通信は861億円で+5.0%。短信によれば高周波モジュールがスマートフォンとPC向けで減り、樹脂多層基板がスマートフォン向けで伸びて差し引きプラスになった。エナジー・パワーは348億円で唯一の減収。電源モジュールがデータセンター向けに伸び、リチウムイオン二次電池もデータセンター向けは増えたが、パワーツール向けの落ち込みとマイクロ一次電池の事業譲渡が上回った。機能デバイスはセンサがモビリティとスマートフォン向けで伸び、305億円で+23.0%と気を吐いている。
売上が5%しか伸びない事業に、村田製作所は研究開発と設備の投資を続けている。赤字が拡大したのはそのためで、稼ぐ事業の利益を将来の柱に振り向けている構図とも読める。ただ前年80億円、今期129億円と赤字幅が広がっている以上、いつ黒字化するかは通期を通して追いかける論点になる。
03 ── DEMAND
用途別に切ると、伸びの主役がはっきりする。コンピュータ用途が1,029億円で+47.0%。データセンター向けに積層セラミックコンデンサ、電源モジュール、リチウムイオン二次電池が揃って増えた。売上構成比は16.8%から20.5%へ3.7ポイント上がり、村田製作所の売上の5分の1がAIサーバーを中心とするコンピュータ用途で占められるまでになった。産業・その他も代理店向けと産業機器向けのコンデンサが伸びて+31.9%。一方で家電は343億円の減収で、パワーツール向けのリチウムイオン二次電池の落ち込みが響いた。
用途別 売上収益の前年同期比
単位:% / 当社推定値ベース
この決算でいちばん先を語っているのは、売上ではなく受注のほうだ。1Qの受注高は6,739億円で前年同期比+56.3%。売上5,023億円に対して1.34倍(算出)に達している。受注残高も6,178億円と、3月末の4,462億円から38.5%増えた。注文が売上を上回るペースで入り続けているあいだは、次の四半期以降の売上が積み上がっていく。
牽引はここでもコンデンサだ。受注高4,155億円で+85.5%、受注残高4,022億円で3月末比+49.4%。売上の伸び30.0%を受注が大きく追い越している。データセンター向けの引き合いが、実際の出荷よりさらに前のめりに入っている状態を示す。
| 受注高 | 前1Q | 当1Q | 前年比 |
|---|---|---|---|
| コンデンサ | 2,240億円 | 4,155億円 | +85.5% |
| コンポーネント | 2,769億円 | 4,898億円 | +76.9% |
| デバイス・モジュール | 1,512億円 | 1,792億円 | +18.5% |
| 合計 | 4,311億円 | 6,739億円 | +56.3% |
| 受注残高 | 3月末 | 6月末 | 増減 |
|---|---|---|---|
| コンデンサ | 2,692億円 | 4,022億円 | +49.4% |
| コンポーネント | 3,114億円 | 4,544億円 | +45.9% |
| デバイス・モジュール | 1,309億円 | 1,586億円 | +21.2% |
| 合計 | 4,462億円 | 6,178億円 | +38.5% |
受注の金額は販売価格ベースの開示。地域別では中華圏が2,454億円で+21.1%と全体の48.8%を占め、アジア・その他が1,120億円で+30.6%。海外向けは合計4,672億円、売上の93.0%にあたる。
受注残高が3か月で1,716億円積み上がったのは、需要の強さをそのまま映している。ただし受注は契約であって売上ではない。データセンター向けの投資が反転すれば、受注のキャンセルや納期の後ろ倒しという形で減る性質のものでもある。1.34倍という比率は、あくまで6月末時点の写真だ。
04 ── GUIDANCE
4月30日に出した通期予想を、3か月で引き上げた。売上収益は1兆9,600億円から2兆1,100億円へ1,500億円、営業利益は3,800億円から4,300億円へ500億円の上積み。理由として挙げているのはデータセンター関連需要のさらなる高まりと円安の進行で、下期の為替前提を1ドル150円から155円に変更している。税引後ROICの計画も12.3%から13.9%へ引き上げた。
| 2027年3月期 通期予想 | 4月30日公表 | 7月31日修正 | 修正幅 | 前期比 |
|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆9,600億円 | 2兆1,100億円 | +1,500億円 | +15.2% |
| 営業利益 | 3,800億円 | 4,300億円 | +500億円 | +52.6% |
| 税引前当期利益 | 3,900億円 | 4,510億円 | +610億円 | +46.1% |
| 親会社所有者帰属当期利益 | 2,930億円 | 3,380億円 | +450億円 | +44.5% |
| ROIC(税引後) | 12.3% | 13.9% | +1.6pt | ─ |
| 設備投資 | 2,500億円 | 2,550億円 | +50億円 | ─ |
| 研究開発費 | 1,670億円 | 1,740億円 | +70億円 | ─ |
通期予想(修正後)に対する第1四半期の進捗率
単位:% / 点線=1年の1/4(25%)
同時に公表された第2四半期累計(4〜9月)の予想は、売上収益1兆400億円、営業利益2,020億円。ここから1Q実績を引くと、2Q単独の計画は売上5,377億円、営業利益1,035億円になる(算出)。前年の2Q単独は売上4,866億円、営業利益1,035億円。つまり会社は、2Qの営業利益を前年とほぼ同額に置いた。
では通期4,300億円をどこで作るのか。下期に2,280億円(算出)が残る。前年下期の1,167億円に対して約1.9倍だ。前年下期は3Qの営業利益率が8.1%まで落ち込んでおり、その反動という側面はある。それでも、上方修正した計画の重心が明確に下期へ寄っていることは押さえておきたい。会社が見込むデータセンター向けの需要と増産が、下期に計画どおり出荷まで到達するかどうかが分岐点になる。
売上収益の進捗率23.8%、営業利益22.9%はいずれも25%割れ。残り9か月で売上1兆6,077億円、営業利益3,315億円(いずれも算出)を積む必要がある。四半期平均に直すと売上5,359億円、営業利益1,105億円で、1Q実績を上回るペースが前提になっている。受注残高6,178億円という後ろ盾はあるものの、増産のスピードと為替の水準が計画の実現度を左右する。
05 ── MARKET VIEW
前年同期比+59.8%という数字だけを見れば文句なしの決算に見える。ただ株価が見ているのは前年ではなく、アナリストの平均予想だ。株予報Proが集計する7月31日時点の市場予想は、今期の営業利益を4,250億円としていた。会社が4月30日に出していた予想は3,800億円。つまり市場は、会社の慎重な計画より450億円(+11.8%・算出)高い水準をすでに織り込んでいたことになる。
そこへ来た今回の上方修正が4,300億円。市場予想を50億円、率にして1.2%(算出)上回った。サプライズと呼ぶには小さい差だ。さらに最終利益では、会社予想3,380億円に対して市場予想3,410億円で、会社の方が30億円低い。上振れした項目と、届かなかった項目が同居している。
通期営業利益 ── 会社予想と市場予想の距離
単位:億円 / 2027年3月期
| 2027年3月期 通期 | 会社予想(7/31修正) | 市場予想 | 差 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 2兆1,100億円 | 2兆円 | 会社が+1,100億円(+5.5%) |
| 営業利益 | 4,300億円 | 4,250億円 | 会社が+50億円(+1.2%) |
| 税引前(経常)利益 | 4,510億円 | 4,500億円 | 会社が+10億円(+0.2%) |
| 当期利益 | 3,380億円 | 3,410億円 | 会社が△30億円(△0.9%) |
市場予想は株予報Pro掲載のIFISコンセンサス(2026年7月31日時点)。IFRS採用企業のため、経常利益の欄には税引前利益が対応する。差の金額・率は算出値。
7月31日終値は7,416円。会社予想の1株当たり当期利益185円68銭を使うと予想PERは39.9倍、1株当たり親会社所有者帰属持分1,515円61銭に対するPBRは4.89倍になる。年間配当70円での予想利回りは0.94%。電子部品の大手としては高い評価が乗っている水準だ。一方でアナリストの目標株価の平均は11,417円、終値との乖離は54.0%。レーティングは5段階で4.77と、強気に寄っている。
06 ── BALANCE SHEET
6月末の資産合計は3兆2,105億円で3月末から114億円の増加。負債は287億円減って4,526億円、資本は401億円増えて2兆7,579億円になった。親会社所有者帰属持分比率は85.0%から85.9%へ0.9ポイント上昇。借入金の少ない、極端に厚い財務体質が続いている。
キャッシュの動きを見ると、この四半期の性格がよく出ている。営業活動によるキャッシュ・フローは422億円のプラス。四半期利益813億円と減価償却費456億円が入る一方、法人所得税を470億円支払い、営業債権が145億円増えて出ていった。投資活動は751億円のマイナスで、うち571億円が生産能力の増強と生産棟の建設にかかる有形固定資産の取得だ。財務活動は676億円のマイナスで、大半が配当金の支払い637億円。結果として営業から投資を引いたフリー・キャッシュ・フローは329億円のマイナス(算出)となり、手元の現金及び現金同等物は6,537億円から5,575億円へ減った。
| キャッシュ・フロー | 前1Q | 当1Q |
|---|---|---|
| 営業活動 | +400億円 | +422億円 |
| 投資活動 | △336億円 | △751億円 |
| 財務活動 | △960億円 | △676億円 |
| フリーCF(算出) | +64億円 | △329億円 |
| 財政状態 | 3月末 | 6月末 |
|---|---|---|
| 資産合計 | 3兆1,991億円 | 3兆2,105億円 |
| 現金及び現金同等物 | 6,537億円 | 5,575億円 |
| 棚卸資産 | 5,205億円 | 5,390億円 |
| 自己資本比率 | 85.0% | 85.9% |
配当は年間70円の予想を据え置いた。中間35円、期末35円で、前期の65円から5円の増配になる。1Qの設備投資は410億円で+18.2%、研究開発費は449億円で+12.7%。従業員数は75,912人と2.7%増えており、増産に向けた投資が数字の各所に出ている。なお4月30日の取締役会で決議した自己株式の取得と消却について、通期予想の1株当たり利益185円68銭には影響を織り込んでいないと短信が注記している。実行が進めば1株当たりの利益は計算上押し上げられる。
07 ── SUMMARY
今回の決算を一言でまとめるなら、コンデンサの一人勝ちだ。AIサーバーと自動車の電動化という2つの需要が積層セラミックコンデンサに集まり、工場が忙しくなるほど利益率が上がる操業度益が効いて、営業利益率は19.6%まで戻った。受注はさらにその先を示している。ここまでは文句のつけようがない。
そのうえで、この号で見ておきたいのは3つの数字だ。デバイス・モジュールの赤字129億円、下期に置かれた営業利益2,280億円、そして市場予想との差1.2%。1つ目は投資フェーズの重さを、2つ目は計画の作り方を、3つ目は株価がどこまで先を買っているかを示している。決算の良し悪しは前年比で決まるが、株価の動きは市場予想との距離で決まる。この四半期は、その2つのものさしがはっきり別のことを語っていた。