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工場内に据えられた大型ガスタービンのローターと翼列

EARNINGS REVIEW

三菱重工業

2027年3月期 第1四半期 決算レビュー

証券コード 7011(東証プライム)対象期間 2026年4月〜6月決算発表 2026年8月4日

税引前四半期利益1,764億円。株予報Proが集計していた市場予想は1,020億円だったから、実に7割超の上振れになる。受注高は20,224億円で四半期として初めて2兆円を超え、受注残高は14兆1,030億円まで積み上がった。8月4日14時31分時点の株価は4,112円、前日比+8.24%で反応している。 ところが会社は、通期の業績見通しに一切手をつけなかった。売上収益5兆4,000億円、事業利益5,400億円、当期利益3,800億円。5月12日に出した数字がそのまま据え置かれている。上方修正したのは受注高の見通しだけだ。事業利益はすでに通期の29.6%(算出)を第1四半期で稼いでいるのに、である。この号は、その「据え置き」が何を意味するのかを読み解く。

受注高

20,224億円
+25.7%前年同期比

売上収益

11,942億円
+15.5%前年同期比

事業利益

1,596億円
+65.1%利益率 13.4%

親会社所有者帰属 四半期利益

1,346億円
+97.4%前年同期比
市場予想(コンセンサス予想)とは ── 決算の合否を決めているものさし
証券会社のアナリストが出した業績予想を集計した平均値です。株価にはこの平均値があらかじめ織り込まれているため、決算の評価は前年比よりも「市場予想を上回ったか、届かなかったか」で決まる場面が多くなります。前年比で大幅増益でも市場予想に届かなければ株価が下がり、減益でも市場予想ほど悪くなければ買われるのはこのためです。本レポートでは株予報Pro(IFISコンセンサス)が2026年8月4日時点で公表している数値を市場予想として扱います。集計対象のアナリスト数や更新時点で数値は動くため、絶対的な正解ではなく目安として見てください。
事業利益とは ── 三菱重工が本業の物差しに使う独自の利益
三菱重工はIFRS(国際財務報告基準)を採用しており、日本基準の営業利益や経常利益にあたる段階がありません。代わりに社内の物差しとして置いているのが事業利益です。売上収益から売上原価、販売費及び一般管理費、その他の費用を引き、持分法による投資損益とその他の収益を足したもの。ここに金融収益と金融費用を加減すると税引前四半期利益になります。並びは事業利益 → 税引前四半期利益 → 四半期利益。市場予想を集計する側は税引前利益を経常利益の欄に当てはめているため、本レポートでもその対応で比較しています。
受注高・受注残高とは ── 重工業でいちばん先を語る数字
受注高はその期間に新しく受け取った注文の金額、受注残高はまだ売上になっていない注文の積み残しです。ガスタービンや艦艇のように納入まで数年かかる製品を扱う会社では、受注が数年先の売上をそのまま予告します。今1Q末の受注残高14兆1,030億円は、通期の売上見通し5兆4,000億円の約2.6年分(算出)にあたります。
GTCCとは ── 今回の主役になったガスタービン複合発電
Gas Turbine Combined Cycleの略で、ガスタービンを回して発電し、その排熱でさらに蒸気タービンを回す二段構えの発電方式です。燃料あたりの発電効率が高く、出力の上げ下げも速い。データセンターの電力需要が世界的に膨らむなかで、短期間に大容量の電源を確保できる選択肢として引き合いが集中しています。三菱重工はこの分野の世界大手で、1Qの大型ガスタービン受注は10台、契約残台数は80台・35GWに達しました。
非継続事業とは ── 今期の数字に混じっているロジスネクストの影
売却が決まった事業を、継続中の事業と分けて表示する会計上の区分です。三菱重工は2025年9月に旧三菱ロジスネクスト(フォークリフト事業)の非公開化を決議し、取引は2026年5月1日に完了しました。そのため受注高・売上収益・事業利益はロジスネクストを除いた継続事業ベースで、四半期利益と親会社所有者帰属四半期利益は継続事業と非継続事業の合計で表示されています。前年同期の数字も同じ基準に組み替えられているため、前年比の比較は成立しています。
進捗率とは ── 通期見通しに対する四半期実績の割合
四半期の実績を通期見通しで割った値です。4四半期が均等なら25%が目安になりますが、季節性や計画の置き方でずれます。今1Qは売上収益22.1%、事業利益29.6%、税引前利益33.3%、当期利益35.4%(いずれも算出)。利益系が軒並み25%を大きく超えたのに見通しが据え置かれた点が、この決算の読みどころになります。

01 ── PERFORMANCE

増収15.5%に対し事業利益は+65.1%。税引前が+99.0%まで伸びた差は金融損益にある

売上収益11,942億円は前年同期の10,341億円から1,600億円の増加。GTCCと原子力が伸びを牽引した。利益の伸び方はこれを大きく追い越している。事業利益は966億円から1,596億円へ629億円の増加で+65.1%。事業利益率は9.4%から13.4%へ4.0ポイント上がった。

もう一段下、税引前四半期利益は886億円から1,764億円へ+99.0%と、ほぼ倍になっている。事業利益の増加が629億円なのに税引前は877億円増えた。差の248億円(算出)はすべて金融損益だ。金融収益が38億円から204億円へ、金融費用が118億円から36億円へ。円安が進んだことによる為替差益が、この段で乗っている。

ここは分けて読んでおきたい。本業の実力が映るのは事業利益の+65.1%のほうで、+99.0%という見栄えのいい数字には為替の振れが上乗せされている。翌四半期に円高へ振れれば、同じ理屈で今度は逆向きに効く。

売上収益と事業利益 ── 前年同期との比較

単位:億円 / 2026年3月期1Q(ロジスネクスト除く)vs 2027年3月期1Q

12,000 8,000 4,000 0 10,341 11,942 966 1,596 売上収益 事業利益
2025年4-6月 2026年4-6月
決算短信の百万円単位の開示値を億円に丸めて表示(売上収益1,034,109→1,194,203百万円、事業利益96,690→159,645百万円)。前年同期はロジスネクストを非継続事業として除いた組替後の数値。
連結(2026年4-6月)前年同期実績増減率
受注高16,092億円20,224億円+25.7%
売上収益10,341億円11,942億円+15.5%
事業利益966億円1,596億円+65.1%
税引前四半期利益886億円1,764億円+99.0%
四半期利益714億円1,381億円+93.4%
親会社所有者帰属四半期利益682億円1,346億円+97.4%
基本的1株当たり四半期利益20円32銭40円08銭+97.2%(算出)
EBITDA1,254億円1,903億円+51.8%(マージン15.9%)
フリー・キャッシュ・フロー643億円3,915億円+3,271億円

販売費及び一般管理費は1,444億円から1,527億円へ83億円増えたが、売上に対する比率は14.0%から12.8%へ1.2ポイント下がった(算出)。増収のスピードに費用が追いついていない状態で、これが利益率の押し上げに効いている。研究開発費は461億円から654億円へ+41.9%(算出)と、費用のなかでは突出して増やしている項目だ。

四半期利益1,381億円には、売却した事業の損益も混じっている

四半期利益1,381億円のうち65億円は、5月1日に手放したロジスネクスト(非継続事業)から出ている。中身は株式譲渡損失329億円と、海外子会社の換算差額が実現した利益245億円、これに法人税の戻り118億円が乗って、差し引き黒字になったものだ。継続事業だけの四半期利益は1,315億円(算出)。「純利益がほぼ倍」という見出しには、事業を売った会計処理の分がわずかに含まれている。

02 ── BRIDGE

629億円の増益のうち、為替は90億円。残る550億円は売上増と採算改善が作った

会社は事業利益の増減を要因ごとに分解して開示している。出発点は前年同期の1,041億円。ここからロジスネクスト分の75億円を落として966億円が比較の土台になる。そこに売上増と利益率改善で550億円、為替で90億円、アセットマネジメント(資産の売却益など)で50億円が積み上がり、賃金アップなどで60億円が落ちて1,596億円に着地した。

増益629億円のうち為替の寄与は90億円、率にして14.3%(算出)。裏を返せば残りの8割超は、売った量が増えたことと採算が良くなったことで説明がつく。円安に助けられただけの決算ではない。

事業利益の増減分析 ── 966億円から1,596億円まで

単位:億円 / 会社開示の要因分解(2026年度第1四半期決算説明資料 P.9)

1,600 1,000 500 0 966 +550 +90 +50 △60 1,596 前年1Q(ML除く) 売上増・採算改善等 為替 アセットマネジメント 賃金アップ等 今1Q
会社開示の増減分析をそのまま図示。前年同期の事業利益1,041億円からロジスネクスト分75億円を控除した966億円が起点。増減の合計は966+550+90+50-60=1,596億円で一致する。

為替は追い風、ただし通期の前提は円高側に置かれている

売上計上の平均レートは1ドル145円80銭から157円20銭へ、11円40銭の円安。ユーロも162円30銭から183円70銭へ振れた。一方で通期見通しの前提は1ドル150円・1ユーロ180円のままだ。1Qの実績157円20銭より7円20銭ぶん円高を置いていることになる。この前提が保守的なら通期には上振れ余地が残り、逆に実勢が前提どおり円高へ戻れば追い風は消える。

会社は残りの期間に為替が確定していないドル建て取引を32億ドル、ユーロ建てを6億ユーロと開示している。単純計算では1円の変動が32億円の振れになる(算出)。事業利益5,400億円の見通しに対して、決して小さくない感応度だ。

03 ── SEGMENT

事業利益1,596億円の63%はエナジーが稼いだ。GTCCと原子力の二枚看板

4月1日の組織再編で報告セグメントは「エナジー」「プラント・インフラ」「インダストリアル・ソリューション」「航空・防衛・宇宙」の4区分になった。旧「物流・冷熱・ドライブシステム」の改称と、データセンター&エネルギーマネジメント部の移管が中身の変更点だ。

この4つで見ると、稼ぎの偏りははっきりしている。エナジーの事業利益1,013億円は、連結1,596億円の63.5%(算出)。しかも前年の564億円から+80%と、伸び率でも他を引き離した。利益率は13.3%から18.9%へ5.6ポイント改善している。

セグメント別の事業利益 ── 前年同期との比較

単位:億円 / 4区分は2026年4月1日の組織再編後。前年同期は再編を遡って反映

1,200 800 400 0 564 1,013 185 217 40 99 288 324 エナジー プラント・インフラ インダストリアル・ソリューション 航空・防衛・宇宙
2025年4-6月 2026年4-6月
決算短信のセグメント情報より(エナジー56,402→101,397、プラント・インフラ18,550→21,719、インダストリアル・ソリューション4,040→9,951、航空・防衛・宇宙28,812→32,428百万円)。このほか「その他及び全社又は消去」が△111→△58億円で、合計が連結事業利益1,596億円になる。
セグメント(2026年4-6月)売上収益前年比事業利益前年比利益率
エナジー5,363億円+26.7%1,013億円+80%18.9%
プラント・インフラ2,000億円△3.8%217億円+17%10.9%
インダストリアル・ソリューション1,779億円+15.1%99億円+146%5.6%
航空・防衛・宇宙2,860億円+9.8%324億円+13%11.3%
その他及び全社又は消去△122億円△58億円
合計11,942億円+15.5%1,596億円+65%13.4%

売上の前年比は開示の億円値からの算出。事業利益の前年比は会社開示の増減率。利益率は事業利益÷売上収益(算出)。

エナジーの中身 ── GTCCの売上が1.4倍、原子力が1.5倍

エナジーを事業別に開くと、伸びの出どころが見える。GTCCの売上は1,968億円から2,749億円へ+39.7%(算出)。原子力は537億円から803億円へ+49.5%(算出)。会社はこの2つを増益の主因に挙げている。一方でスチームパワーは売上869億円と減収だが、受注は929億円から1,608億円へ+73.1%(算出)と中東・アジア向けが伸びた。

エナジー 主要事業受注高 前1Q受注高 当1Q売上 前1Q売上 当1Q
GTCC6,025億円9,300億円1,968億円2,749億円
スチームパワー929億円1,608億円962億円869億円
航空エンジン628億円986億円594億円760億円
原子力1,014億円1,555億円537億円803億円
エナジー計(その他含む)8,713億円13,593億円4,232億円5,363億円

もうひとつ、エナジーの数字で見ておきたいのがアフターサービスの比率だ。エナジー全体の売上に占めるアフターサービスの割合は64%から59%へ下がった。GTCCに限れば55%から45%だ。これは新設案件の出荷が増えて分母が膨らんだ結果で、悪い変化ではない。ただしアフターサービスは新設より採算が安定しやすい領域でもある。新設の比重が上がるほど、案件ごとの採算のブレは大きくなる。

プラント・インフラは減収増益、インダストリアル・ソリューションは黒字幅が2.5倍

プラント・インフラは売上2,000億円で△3.8%(算出)の減収ながら、事業利益は185億円から217億円へ+17%。エンジニアリングが増収増益で、製鉄機械と機械システムが減収減益という内訳になっている。受注のほうは2,395億円から3,688億円へ+54.0%(算出)で、製鉄機械と商船が伸びた。

インダストリアル・ソリューションは事業利益40億円から99億円へ+146%。利益率は2.6%から5.6%へ上がったが、それでも4区分でいちばん低い。エンジンのアジア向けが好調で、冷熱は国内の大型冷凍機が堅調。通期見通しは300億円(利益率4.0%)で、前期の20億円の赤字からの黒字転換を計画している。

04 ── ORDERS

受注高20,224億円。エナジーが+56%で牽引し、航空・防衛・宇宙は前年の反動で3分の1に

受注は四半期として過去最大の20,224億円。前年同期から4,132億円の増加で+25.7%。ただし中身は一方向ではない。エナジーが8,713億円から13,593億円へ+56.0%(算出)と全体を引き上げた裏で、航空・防衛・宇宙は3,508億円から1,209億円へ△65.5%(算出)と3分の1近くまで落ちている。

この減少には理由がある。前年同期にオーストラリア向けフリゲートの大型受注が計上されており、その反動だ。会社はこの案件を除けば防衛・宇宙の受注は前年度対比で増加を見込むとしており、通期の受注見通しはむしろ16,500億円から17,500億円へ引き上げている。

セグメント別の受注高 ── 前年同期との比較

単位:億円 / エナジーが押し上げ、航空・防衛・宇宙は大型案件の反動で減少

15,000 10,000 5,000 0 8,713 13,593 2,395 3,688 1,627 1,930 3,508 1,209 エナジー プラント・インフラ インダストリアル・ソリューション 航空・防衛・宇宙
2025年4-6月 2026年4-6月(増加) 2026年4-6月(減少)
会社開示の億円値。前年同期のオーストラリア向けフリゲートの大型受注が航空・防衛・宇宙の反動減の主因。「その他及び全社又は消去」△152→△197億円を含めた合計が16,092→20,224億円。

受注残高14兆1,030億円 ── 通期売上見通しの2.6年分

3月末の13兆2,376億円から8,653億円積み増して、6月末の受注残高は14兆1,030億円になった。通期の売上見通し5兆4,000億円で割ると約2.6年分(算出)。この会社が数年先まで作るものを持っていることを、この1行が示している。

積み上がったのはエナジーだ。6兆9,832億円から7兆8,146億円へ8,314億円増えて、増加額のほぼ全部を占める。逆に航空・防衛・宇宙は4兆632億円から3兆8,983億円へ1,649億円減った。売上として消化した分を新規受注が埋めきらなかった格好で、通期の受注見通し17,500億円に対する1Q進捗は6.9%(算出)にとどまる。ここは下期の大型受注を前提にした置き方になっている。

受注残高3月末6月末
エナジー69,832億円78,146億円
プラント・インフラ21,028億円22,861億円
インダストリアル・ソリューション875億円1,032億円
航空・防衛・宇宙40,632億円38,983億円
合計132,376億円141,030億円
大型ガスタービン前1Q当1Q
受注台数8台10台
受注出力4GW4GW
契約残台数53台80台
契約残出力23GW35GW
うち米州の受注6台4台

大型ガスタービンの契約残台数は前年度末(2026年3月末)時点で74台・33GW。中国の協業先企業における受注台数は別枠で、前1Q3台・当1Q2台。

地域では米州とEMEAが伸びている

売上を地域別に見ると、国内4,788億円で+7.1%、米州3,574億円で+22.9%、アジア・パシフィック1,875億円で+14.2%、EMEA1,704億円で+28.9%(いずれも算出)。海外比率は59.9%(算出)で、前年の56.8%から3.1ポイント上がった。米州はGTCC、EMEAは航空・防衛・宇宙とエナジーが押し上げている。データセンター向け電源の需要が最も強い地域で売上が伸びている構図で、受注の中身とも符合する。

05 ── GUIDANCE

利益の進捗は3割前後。それでも通期見通しは据え置き、変えたのは受注高だけ

この決算のいちばんの読みどころがここだ。会社は通期の売上収益5兆4,000億円、事業利益5,400億円、税引前利益5,300億円、当期利益3,800億円を、5月12日の公表から動かさなかった。手を入れたのは受注高で、6兆8,000億円から7兆円へ2,000億円の引き上げ。内訳はエナジーが34,500億円から35,500億円、航空・防衛・宇宙が16,500億円から17,500億円だ。

一方で第1四半期の進捗率は、売上収益22.1%、事業利益29.6%、税引前利益33.3%、当期利益35.4%(いずれも算出)。売上だけが25%を下回り、利益系は軒並み大きく超えている。とりわけ当期利益は35.4%で、単純に4倍すると1兆4,000億円を超える計算になる。

通期見通しに対する第1四半期の進捗率

単位:% / 点線=1年の1/4(25%)

25%(1年の1/4) 受注高 売上収益 事業利益 税引前利益 当期利益 28.9% 22.1% 29.6% 33.3% 35.4%
第1四半期実績÷通期見通しの算出値。受注高は上方修正後の7兆円に対する比率。売上収益だけが25%を下回り、利益は3項目とも大きく上回る。
2027年3月期 通期見通し前期実績5月12日公表8月4日前期比
受注高76,536億円68,000億円70,000億円△8.5%
売上収益49,741億円54,000億円54,000億円+8.6%
事業利益4,322億円5,400億円5,400億円+24.9%(利益率10.0%)
親会社所有者帰属当期利益3,321億円3,800億円3,800億円+14.4%
EBITDA5,537億円6,600億円6,600億円+19.2%
フリー・キャッシュ・フロー8,934億円3,000億円6,000億円△2,934億円
ROE12.2%12%12%
年間配当25円29円29円+4円

前提為替レートは1ドル150円・1ユーロ180円。見通しには中東情勢の影響を含めていないと会社は注記している。フリー・キャッシュ・フローの見通しは3,000億円から6,000億円へ引き上げられた。

据え置きをどう読むか ── 3つの見立て

  • 為替の前提が保守的。1Qの実績157円20銭に対し通期前提は150円。円安が続けば利益は上振れするが、会社は前提を動かしていない。
  • 大型案件の採算は年度末に確定する。ガスタービンや艦艇のような長期の工事は、期を通した進捗と原価の見直しで着地が動く。1Qの好調をそのまま4倍にはできない構造がある。
  • 1Qに一過性の押し上げが混じっている。アセットマネジメントによる利益貢献は前年1Qの50億円から今1Qは100億円へ。金融損益の248億円改善(算出)も為替差益が主因で、通期で同じペースが続く保証はない。

いずれにせよ、進捗率が示す上振れ余地と、会社が置いた数字とのあいだには距離がある。次の四半期に見通しが動くかどうかが、この銘柄を見るうえでの次の分岐点になる。

06 ── MARKET VIEW

【市場予想】と比べてどうだったか ── 1Qは7割超の上振れ。市場は通期でも会社超えを織り込んでいる

株予報Proの集計では、第1四半期の税引前利益に対する市場予想は1,020億円だった。実績は1,764億円。差は744億円、率にして+72.9%(算出)の上振れになる。決算発表当日の8月4日、14時31分時点の株価は4,112円で前日比+313円、+8.24%。市場の想定を明確に超えた決算だったことは、この2つの数字が示している。

第1四半期の税引前利益 ── 市場予想と実績

単位:億円 / 市場予想は株予報Pro掲載のIFISコンセンサス

2,000 1,000 0 886 1,020 1,764 前年同期 市場予想 今1Q実績
前年同期実績 市場予想(アナリスト平均) 今1Q実績
市場予想は株予報Pro掲載のIFISコンセンサス(2026年8月4日時点)。実績176,426百万円を億円に丸めて表示。

通期では、市場のほうが会社より強気に置いている

面白いのは通期の並びだ。会社の見通しは売上5兆4,000億円、税引前5,300億円、当期利益3,800億円。対する市場予想は売上5兆5,373億円、経常(税引前)5,861億円、当期利益4,105億円。3項目とも市場のほうが上を見ている。会社が据え置いた見通しを、アナリストは信じていないとも読める。1Qの進捗率が示す上振れ余地を、市場はすでに数字に織り込んでいる。

2027年3月期 通期会社見通し(8/4据え置き)市場予想
売上収益5兆4,000億円5兆5,373億円会社が△1,373億円(△2.5%)
税引前(経常)利益5,300億円5,861億円会社が△561億円(△9.6%)
当期利益3,800億円4,105億円会社が△305億円(△7.4%)

市場予想は株予報Pro掲載のIFISコンセンサス(2026年8月4日時点)。IFRS採用企業のため、経常利益の欄には税引前利益が対応する。差の金額・率は算出値。

株価はどこまで先を買っているか

8月4日14時31分時点の株価4,112円に対し、会社見通しの1株当たり当期利益113円09銭を使った予想PERは36.4倍。実績PBRは4.47倍、年間配当29円での予想利回りは0.71%。時価総額はおよそ13.9兆円。アナリストの目標株価の平均は5,542円で、現在値からの乖離は34.78%。レーティングは5段階で4.77と、かなり強気に寄っている。

PER36倍という水準は、重工業の伝統的な評価尺度からは大きく外れている。市場がここに払っているのは今期の利益ではなく、14兆円の受注残とデータセンター向け電源の需要が数年続くという見立てだ。裏返せば、その見立てが揺らいだときの下押しも同じ倍率で効く。

市場予想を読むときの3つの注意

  • コンセンサスは平均値であって、正解ではない。何人のアナリストが、いつ時点で出した予想を集計したかで数字は動く。
  • 決算発表の直後は、発表内容を反映していない改訂前の予想が混じっていることがある。今回の市場予想は8月4日時点のもので、1Qの上振れを織り込んだ改訂はこれから進む。
  • 株価は決算だけで動くわけではない。8月4日の+8.24%を決算への反応と断定はできない。日経平均の水準や防衛・電力関連の物色など、同じ日に効いている要素は他にもある。

07 ── BALANCE SHEET

実質無借金1兆1,642億円のネットキャッシュ。フリーCFは3,915億円まで膨らんだ

6月末の資産合計は8兆1,513億円で、3月末から1,183億円の減少。手元の現金及び現金同等物は1兆3,348億円から1兆6,840億円へ3,492億円増えた。有利子負債は5,198億円とほぼ横ばいで、差し引きのネットは1兆1,642億円のキャッシュ超過。D/Eレシオ0.16、親会社所有者帰属持分比率は37.3%から38.9%へ1.6ポイント上がった。

キャッシュの動きは特殊な四半期だった。営業キャッシュ・フローは896億円から2,845億円へ1,949億円の増加。契約負債(前受金)が2,995億円増えており、受注が現金の形で先に入ってきていることが読み取れる。投資キャッシュ・フローは253億円のマイナスから1,069億円のプラスへ転じた。ロジスネクストの譲渡に伴う事業売却収入1,382億円が入ったためで、通常の四半期には起きない動きだ。結果、フリー・キャッシュ・フローは3,915億円と前年の643億円から6倍になった。

キャッシュ・フロー前1Q当1Q
営業活動+896億円+2,845億円
投資活動△253億円+1,069億円
フリーCF+643億円+3,915億円
財務活動△478億円△821億円
財政状態3月末6月末
資産合計82,697億円81,513億円
現金及び現金同等物13,348億円16,840億円
有利子負債5,157億円5,198億円
親会社所有者帰属持分30,885億円31,712億円
自己資本比率37.3%38.9%

配当は年間29円の予想を据え置いた。中間14円、期末15円で、前期の25円から4円の増配になる。設備投資の通期見通しは2,100億円、研究開発費(広義)は3,500億円。1Qの実績はそれぞれ279億円と654億円で、投資はここからが本番という置き方だ。GTCCの増産と原子力の案件をこなすための能力増強が、下期に向けて積み上がることになる。

08 ── SUMMARY

数字は文句なく強い。読みどころは、その強さを会社自身がまだ通期に反映していないことにある

評価できる点

  • 事業利益+65.1%、利益率9.4%→13.4%。増益629億円のうち為替は90億円だけ。
  • 受注高20,224億円で四半期として初の2兆円超。受注残高は14兆1,030億円。
  • エナジーの事業利益1,013億円、利益率18.9%。GTCC売上+39.7%、原子力+49.5%(算出)。
  • 1Q税引前利益は市場予想を+72.9%上回った(算出)。
  • ネットキャッシュ1兆1,642億円、D/Eレシオ0.16。自己資本比率は38.9%へ改善。

留意しておきたい点

  • 税引前+99.0%のうち248億円は金融損益(算出)。為替差益は逆にも振れる。
  • 航空・防衛・宇宙の受注が△65.5%(算出)。通期見通し17,500億円に対し1Q進捗6.9%。
  • 利益の進捗が3割前後でも通期見通しは据え置き。上方修正したのは受注高だけ。
  • フリーCF3,915億円には事業売却収入1,382億円が含まれる。通常の稼ぐ力とは分けて見る。
  • 予想PER36.4倍。市場は会社見通しを上回る利益をすでに織り込んでいる。

今回の決算を一言でまとめるなら、電力需要が三菱重工の損益計算書に届いた四半期だった。データセンターの建設ラッシュが電源の逼迫を招き、短期間に大容量を確保できるGTCCへ引き合いが集中する。その注文が売上に変わり始めたのが、エナジーの売上+26.7%と利益率18.9%という数字だ。大型ガスタービンの契約残は80台・35GW。原子力もこれに続いている。

そのうえで、この号で見ておきたい数字は3つある。事業利益の進捗29.6%、航空・防衛・宇宙の受注進捗6.9%、そして予想PER36.4倍。1つ目は会社が通期をどれだけ低く置いているかを、2つ目は下期に何を積む前提かを、3つ目は株価がその先をどこまで買っているかを示す。会社は数字を動かさなかった。市場はもう動かしている。この四半期は、その差がいちばんはっきり出た決算だった。

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