EARNINGS REVIEW
2027年3月期 第1四半期 決算レビュー
キオクシアホールディングス/証券コード 285A(東証プライム)
対象期間 2026年4月〜6月 / 決算発表 2026年7月31日
売上収益1兆7,671億円、営業利益1兆2,700億円。前年同期はそれぞれ3,428億円と449億円だったから、売上は5.2倍、営業利益は28.3倍になった。営業利益率は13.1%から71.9%へ。1,000円売って719円が営業利益として残る計算で、製造業の四半期としては見慣れない水準の数字が並んでいる。 伸びの中身は数量より単価だ。短信は増収の理由を「生成AI用途を中心としたデータセンター向け顧客の需要が旺盛に推移したことによる平均販売単価の大幅な上昇」と説明し、出荷量の増加と円安をそれに続けている。同じ7月31日、会社は上限8,000億円の自己株式取得枠と、1株を3株に分ける株式分割も決議した。配当は無配のままである。
売上収益
営業利益
親会社帰属四半期利益
1株当たり四半期利益
01 ── PERFORMANCE
売上収益は前年同期の3,428億円から1兆7,671億円へ、+415.5%増えた。注目したいのは、その裏で売上原価が2,716億円から3,871億円、+42.5%(算出)しか増えていないことだ。売上が5.2倍になっても原価は1.4倍にとどまった。差はそのまま売上総利益に乗り、712億円から1兆3,801億円へ19.4倍(算出)になっている。売上総利益率は20.8%から78.1%(いずれも算出)へ。
販管費は298億円から717億円へ増えたが、売上に対する比率では8.7%から4.1%(算出)に下がった。この結果、営業利益は449億円から1兆2,700億円へ。親会社の所有者に帰属する四半期利益は183億円から8,422億円になり、1株当たり四半期利益は33円90銭から1,539円91銭へ1,506円01銭(算出)増えている。
売上収益と営業利益 ── 前年同期との比較
単位:億円 / 2026年3月期1Q vs 2027年3月期1Q
| 連結損益(単位:百万円) | 当1Q | 前1Q | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1,767,117 | 342,799 | +415.5% |
| 売上原価 | 387,051 | 271,620 | +42.5%(算出) |
| 売上総利益 | 1,380,066 | 71,179 | 19.4倍(算出) |
| 販売費及び一般管理費 | 71,727 | 29,847 | +140.3%(算出) |
| その他の収益 | 530 | 3,921 | △86.5%(算出) |
| その他の費用 | 38,852 | 354 | 費用が増加 |
| 営業利益 | 1,270,017 | 44,899 | 28.3倍(算出) |
| Non-GAAP営業利益 | 1,326,216 | 45,214 | 29.3倍(算出) |
| 金融収益 | 17,170 | 2,398 | 7.2倍(算出) |
| 金融費用 | 52,801 | 19,860 | +165.8%(算出) |
| 税引前四半期利益 | 1,234,720 | 27,294 | 45.2倍(算出) |
| 法人所得税費用 | 392,549 | 9,021 | 43.5倍(算出) |
| 親会社帰属四半期利益 | 842,165 | 18,284 | 46.1倍(算出) |
| 四半期包括利益 | 995,798 | 22,415 | 44.4倍(算出) |
| 基本的1株当たり四半期利益 | 1,539円91銭 | 33円90銭 | +1,506円01銭 |
増減率が1,000%以上になる項目は短信では「-」と表記される。この表では読みやすさを優先し、算出した倍率を記載した。金融費用の+165.8%は費用が増えたことを示す。
この四半期の勢いは、前年同期という低い比較対象のせいだけではない。直前の第4四半期と並べると、売上収益は1兆29億円から1兆7,671億円へ+76.2%(算出)、営業利益は5,968億円から1兆2,700億円へ+112.8%(算出)。営業利益率も59.5%から71.9%(算出)へ上がっている。米ドルの平均為替レートは前四半期の155円に対し当1Qは160円で、円安も5円分だけ追い風になった。
02 ── PROFIT ENGINE
増収額に対してどれだけ利益が増えたかを見ると、この決算の性格がはっきりする。売上収益の増加額1兆4,243億円に対し、営業利益の増加額は1兆2,251億円。増えた売上の86.0%(算出)がそのまま営業利益として残った。前四半期との比較でも同じで、増収額7,643億円に対して営業増益額は6,732億円、比率にして88.1%(算出)である。増えた売上のほとんどが利益になるのは、増収の中身が数量ではなく単価だからだ。
単価が上がったぶんの売上には、それに対応する材料費も加工費もほとんど乗らない。同じものを同じだけ作って高く売れた分は、コストを経由せずに利益へ直行する。売上が5.2倍でも売上原価が1.4倍にとどまった理由はここにある。決算短信のキャッシュ・フロー計算書によれば、減価償却費及び償却費はむしろ800億円から760億円へ減っている。設備を増やして稼いだのではなく、既存の設備で作ったものが高く売れた四半期だった。
利益率の変化 ── 前年同期との比較
単位:% / 売上総利益率・営業利益率・純利益率
この四半期の営業利益には、性格の違う費用が3つ含まれている。買収に伴うPPA影響額等が2億円、株式報酬費用が194億円、そして訴訟損失引当金繰入額が366億円。合わせて562億円で、これらを除いたNon-GAAP営業利益は1兆3,262億円になる。前年同期のNon-GAAP営業利益は452億円だったので、こちらで比べると29.3倍(算出)だ。
訴訟損失引当金の366億円は、前年同期にも前四半期にも計上のなかった項目である。貸借対照表では引当金(流動・非流動の合計)が167億円から660億円へ増えた。短信は引当の中身を説明していない。時期と規模は本誌7月17日号で扱った米国の訴訟評決に近いが、短信に明示はなく、両者を結び付けるのは推測にとどまる。
税負担も重くなった。法人所得税費用は3,925億円で、税引前四半期利益に対する比率は31.8%(算出)。前年同期の33.1%(算出)とほぼ同水準で、この規模の利益が出ても税率そのものは動いていない。
03 ── APPLICATION
キオクシアはメモリ事業の単一セグメントで、セグメント別の利益は開示されない。代わりに売上収益を用途別に3つに分けている。PC・データセンター・エンタープライズ向けのSSD&ストレージ、スマートフォンやタブレット、車載・産業機器向けの組み込み式メモリを含むスマートデバイス、SDメモリカードやUSBメモリなどのその他だ。
最大の柱であるSSD&ストレージは2,174億円から1兆1,747億円へ5.4倍(算出)。ただし伸び率で見ると、スマートデバイスの790億円から5,257億円への6.6倍(算出)のほうが大きい。生成AI向けデータセンターの話に注目が集まりやすいが、スマートフォンやテレビ、車載に載る組み込みメモリの単価も同時に上がっている。フラッシュメモリの需給は用途をまたいでつながっているためだ。
アプリケーション別の売上収益 ── 前年同期との比較
単位:億円 / 2026年3月期1Q vs 2027年3月期1Q
| アプリケーション別売上収益 | 当1Q (百万円) | 構成比 | 前1Q (百万円) | 構成比 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|---|---|
| SSD&ストレージ | 1,174,719 | 66.5% | 217,411 | 63.4% | +440.3%(算出) |
| スマートデバイス | 525,656 | 29.7% | 79,040 | 23.1% | +565.1%(算出) |
| その他 | 66,742 | 3.8% | 46,348 | 13.5% | +44.0%(算出) |
| 合計 | 1,767,117 | 100.0% | 342,799 | 100.0% | +415.5% |
構成比では、その他が13.5%から3.8%(算出)まで縮んだ。金額そのものは463億円から667億円へ増えているが、伸び率が+44.0%(算出)にとどまったため、5倍以上に膨らんだ2区分の陰に隠れた形だ。その他にはSDメモリカードやUSBメモリといったリテール向け製品と、製造合弁会社3社を経由して計上されるSandiskグループ向けの売上が含まれる。ここが伸びていないという事実は、今回の増収がリテール市場ではなく、法人向けの需給逼迫によるものだと裏側から示している。
04 ── GUIDANCE
会社が示した第2四半期(2026年7〜9月)単独の見通しは、売上収益2兆3,900億円、営業利益1兆8,900億円。今回の1Q実績に対してそれぞれ+35.2%、+48.8%の増加である。想定営業利益率は79.1%(算出)で、1Qの71.9%からさらに上がる計画だ。データセンター向けの需要が引き続き旺盛に推移するというのが会社の見立てで、想定為替は1ドル162円と、1Qの160円より2円円安に置いている。
| 2027年3月期 第2四半期(単独)の見通し | 1Q実績 | 2Q見通し | 前四半期比 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆7,671億円 | 2兆3,900億円 | +35.2% |
| Non-GAAP営業利益 | 1兆3,262億円 | 1兆9,000億円 | +43.3% |
| 営業利益 | 1兆2,700億円 | 1兆8,900億円 | +48.8% |
| 税引前四半期利益 | 1兆2,347億円 | 1兆8,700億円 | +51.5% |
| 親会社帰属四半期利益 | 8,422億円 | 1兆2,700億円 | +50.8% |
| 基本的1株当たり四半期利益 | 1,539円91銭 | 2,317円46銭 | +777円55銭 |
| 米ドル平均為替レート | 160円 | 162円 | +2円 |
売上収益の四半期推移 ── 直近4四半期と第2四半期見通し
単位:億円 / 破線の棒は会社見通し(実績ではない)
1Qと2Qを足した中間期(第2四半期累計)の予想は、売上収益4兆1,571億円、営業利益3兆1,600億円、親会社帰属中間利益2兆1,122億円。この中間期予想に対する1Q実績の進捗率は、売上収益42.5%、営業利益40.2%、純利益39.9%(いずれも算出)である。分母が半年分なので、目安は折り返しの50%になる。3項目とも50%を下回るのは、会社が2Qにより大きな数字を置いているからだ。
中間期予想に対する第1四半期の進捗率
単位:% / 点線=中間期の半分(50%)。通期予想は開示されていない
キオクシアは通期の業績予想を開示していない。短信は「当社グループが属する半導体メモリ業界では事業環境が短期間に大きく変化する特徴等があることから、年度計画値及び当該達成状況に係る記載は省略しています」と説明する。示されるのは翌四半期の見通しまで。強い数字が並ぶ一方で、会社自身が1年先を約束できる業界ではないと言っていることになる。
05 ── BALANCE SHEET
1四半期で8,422億円の利益が出たことは、財務諸表の姿を大きく変えた。総資産は3兆6,901億円から4兆7,305億円へ1兆404億円増加。資本合計は1兆3,991億円から2兆4,045億円へ、ほぼ1兆円積み上がった。親会社所有者帰属持分比率は37.9%から50.8%へ、12.9ポイント上昇している。
資産側で増えたのは、営業債権及びその他の債権が4,910億円、現金及び現金同等物が3,203億円。負債側では、社債及び借入金が4,130億円減った一方、未払法人所得税が2,355億円、営業債務及びその他の債務が1,119億円、訴訟損失引当金を含む引当金が493億円増えている。有形固定資産は1兆553億円から1兆558億円へほぼ横ばいで、この四半期の資産増加は設備ではなく、稼いだ現金と売掛債権によるものだ。
| 連結財政状態(単位:百万円) | 当1Q末 2026年6月30日 | 前期末 2026年3月31日 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 現金及び現金同等物 | 791,014 | 470,707 | +320,307 |
| 営業債権及びその他の債権 | 1,151,562 | 660,559 | +491,003 |
| 棚卸資産 | 438,111 | 412,612 | +25,499 |
| 有形固定資産 | 1,055,840 | 1,055,255 | +585 |
| 資産合計 | 4,730,476 | 3,690,071 | +1,040,405 |
| 社債及び借入金(流動+非流動) | 634,554 | 1,047,568 | △413,014 |
| 未払法人所得税 | 340,035 | 104,516 | +235,519 |
| 引当金(流動+非流動) | 65,985 | 16,716 | +49,269 |
| 負債合計 | 2,325,998 | 2,290,992 | +35,006 |
| 親会社の所有者に帰属する持分 | 2,404,320 | 1,398,929 | +1,005,391 |
| 親会社所有者帰属持分比率 | 50.8% | 37.9% | +12.9pt |
キャッシュ・フロー3区分 ── 前年同期との比較
単位:億円 / 営業活動・投資活動・財務活動によるCF
営業活動によるCFは611億円から8,663億円へ。税引前四半期利益1兆2,347億円を計上した一方、営業債権及びその他の債権の増加で4,721億円が出ていった。売った分の代金がまだ回収されていない状態で、売上が急増する局面ではこうなる。投資活動によるCFは△1,173億円で、Nanya Technology Corporationの株式取得に伴う支出782億円と有形固定資産の取得512億円が主な中身。営業CFから投資CFを差し引いたフリーキャッシュ・フローは7,490億円(算出)になる。
財務活動によるCFは△4,304億円と支出が膨らんだ。長期借入金の繰上返済で4,332億円を返したためだ。稼いだ現金をまず借金の返済に回した四半期で、その結果として現金及び現金同等物の残高は7,910億円になっている。
営業CFが8,663億円まで伸びた背景には、税金の支払いがまだ本格化していないという事情もある。未払法人所得税は前期末の1,045億円から3,400億円へ、2,355億円増えた。この四半期に計上した法人所得税費用3,925億円の多くは、支払いが先送りになっている状態だ。翌四半期以降、この分はキャッシュとして出ていく。
06 ── CAPITAL RETURN
決算と同じ7月31日、会社は2つの資本政策を決議した。1つは自己株式の取得枠設定で、上限3,000万株かつ上限8,000億円。3,000万株は6月30日時点の発行済株式総数(自己株式を除く)に対して5.5%にあたる。取得期間は2026年8月3日から10月30日までで、東京証券取引所での取引一任契約に基づく市場買付を予定している。取得の理由として会社は、6月2日のInvestor Dayで説明した成長投資と財務健全性の強化に触れたうえで、AI・データセンター向け需要の拡大で事業基盤と財務基盤の強化が早期に実現可能な状況になったと述べている。
| 自己株式の取得枠 | 内容 |
|---|---|
| 取得しうる株式の総数 | 3,000万株(上限)/発行済株式総数(自己株式を除く)の5.5% |
| 取得価額の総額 | 8,000億円(上限) |
| 取得期間 | 2026年8月3日 〜 10月30日 |
| 取得方法 | 東証における取引一任契約に基づく市場買付 |
| 株式分割後の株数上限 | 9,000万株(効力発生日 2026年10月1日以降) |
金額と株数の両方に上限があるため、先に到達したほうで取得は終わる。8,000億円を3,000万株で割ると1株あたり26,667円(算出)。平均取得単価がこれを上回れば金額の枠が先に尽き、下回れば株数の枠が残る。分割後の9,000万株で割り直せば8,889円(算出)だ。会社は「市場環境等により、一部又は全部の取得が行われない可能性があります」と注記している。枠の設定は、実行の約束ではない。
もう1つが株式分割だ。2026年9月30日を基準日とし、10月1日を効力発生日として1株を3株に分ける。発行済株式総数は548,015,088株から1,644,045,264株へ。定款も変更し、発行可能株式総数は20億7,000万株から62億1,000万株になる。目的は投資単位当たりの金額を引き下げて投資家層を広げることで、東証が望ましいとする投資単位50万円未満の水準への移行については「引き続き検討してまいります」という書き方にとどめた。資本金の額は変わらない。
| 株式分割(1株 → 3株) | 分割前 | 分割後 |
|---|---|---|
| 発行済株式総数 | 548,015,088株 | 1,644,045,264株 |
| 発行可能株式総数 | 2,070,000,000株 | 6,210,000,000株 |
| 1Qの1株当たり四半期利益 | 1,539円91銭 | 513円30銭(算出) |
| 2Q見通しの1株当たり四半期利益 | 2,317円46銭 | 772円49銭(算出) |
| 日程 | 基準日公告 9月10日 / 基準日 9月30日 / 効力発生日 10月1日(いずれも2026年) | |
一方、配当は動いていない。2026年3月期の年間配当は0円、2027年3月期も第2四半期末は0円の予想で、期末配当は未定のままだ。1四半期で8,422億円を稼いだ会社が、株主への還元手段として選んだのは配当ではなく自己株式の取得だった。取得枠の上限8,000億円は、この四半期の親会社帰属利益とほぼ同じ大きさで、期末の現金及び現金同等物7,910億円ともほぼ並ぶ。
07 ── SUMMARY
この四半期の数字は、フラッシュメモリの需給が極端に締まった局面をそのまま映している。売上が5.2倍になっても原価は1.4倍、設備も減価償却も増えていない。増収の86%が利益として残るのは、そういう構造の裏返しだ。強さの正体が単価である以上、同じ構造は下り坂でも同じ倍率で働く。会社が通期予想を出さない理由も、そこにある。
もう一つ読み取れるのは、稼いだ現金の使い道だ。この四半期、キオクシアはまず借入金を4,332億円返し、そのうえで上限8,000億円の自己株式取得枠を設定した。配当はゼロのまま据え置いている。設備投資を積み増して次のサイクルに賭けるのではなく、財務を軽くして株数を減らす。市況が良いうちに足元を固めるという選択を、この決算は示している。次の確認ポイントは、10月30日までの取得枠がどこまで実行されるかだ。