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ドミノのように倒れていくメモリチップ

号外EXTRA EDITION

キオクシア

2度目のストップ安 ── 倒れたのは1社ではない

東証プライム 285A / 2026年7月28日 東京市場の大引け後 / 公開情報に基づく号外レポート

7月28日、キオクシアは制限値幅の下限で売買が止まったまま引けました。ストップ安は7月17日以来2度目です。 ただし今回は、前回と決定的に違う点がひとつあります。売られたのはキオクシアだけではありませんでした。 韓国ではKOSPIが8%を超えて下落してサーキットブレーカーが発動し、サムスン電子とSKハイニックスはそろって約11%安。 日経平均は2,566円安(▲3.95%)、台湾も4%超下げました。メモリーとAI半導体という同じ場所に、世界中から同時に売りが出た1日です。 この号外では、その日に何が起きたのかを時刻順に並べ直し、値動きの背後にある3つの材料を切り分けます。

7月28日 終値(ストップ安)

44,550
▲10,000円(▲18.33%)前日終値 54,550円

最高値からの下落率

▲59%
6/22 108,700円 → 44,550円終値ベース・算出値

日経平均株価

62,364.92円
▲2,566.27円(▲3.95%)約2カ月ぶりの安値
ストップ安と値幅制限 ── なぜ44,550円で止まったのか
東証は1日の値動きに上限と下限を設けています(値幅制限)。幅は前日終値の水準ごとに決まっており、前日終値が5万円以上7万円未満の銘柄は上下1万円まで。キオクシアの前日終値は54,550円だったので、この日の下限は44,550円でした。株価がここに達すると、それ以下では売買が成立しません。売り注文だけが積み上がったまま終わることをストップ安と呼びます。制度の目的は、パニックによる際限のない下落を1日単位で区切ることにあります。
サーキットブレーカー ── 韓国市場が20分止まった理由
指数が一定幅を超えて急落したとき、取引所が市場全体の売買を一時停止する仕組みをサーキットブレーカーといいます。韓国取引所ではKOSPIが前日比8%以上下落した状態が1分間続くと発動し、全銘柄の売買が20分間止まります。28日の発動は今年に入って8回目でした。日本のストップ安が「銘柄ごと」のブレーキであるのに対し、こちらは「市場全体」のブレーキです。なお韓国市場は再開後さらに下げ、下落率は一時11%に達しました。
信用倍率 ── 「まだ売られていない売り」の量を測る
信用取引で買われた株数(信用買い残)を、売られた株数(信用売り残)で割った値が信用倍率です。倍率が高いほど、借金をして買っている人が一方的に多い状態を意味します。彼らはいずれ決済のために売らなければならず、株価が下がって含み損が膨らむと、追加証拠金(追い証)に迫られて投げ売りが連鎖しやすくなります。キオクシアの信用倍率は7月17日時点で36倍超。前の週の約24倍から一段と上がっていました。

01 ── THE DAY

売りは東京から始まっていない

時刻順に並べると、この日の下げが東京発でないことがはっきりします。起点は前夜の米国市場でした。27日、フィラデルフィア半導体株指数が大幅安となり、データセンター向けNANDフラッシュ大手のサンディスクが11%超下落。エヌビディアも約5%安で引けています。材料として名指しされたのは、エヌビディアが関与すると報じられた総額7,500億ドル超のAIインフラ案件の協議でした。数字が巨額であるほど、市場は「その資金はどこから出て、どこへ回っているのか」と考え始めます。

明けて28日のアジア時間、売りは韓国で一気に噴き出しました。KOSPIは8%を超えて下落してサーキットブレーカーが発動し、20分間の売買停止。再開後の下げ幅は一時11%に達し、サムスン電子とSKハイニックスはそろって約11%安となりました。SKハイニックスの時価総額は、6月に付けた過去最高値から約5,700億ドル減っています。

東京はその流れをそのまま受けました。日経平均は前引け時点で2,884円安、下げ幅は一時3,000円を超え、終値は2,566円27銭安の6万2,364円92銭。約2カ月ぶりの安値です。キオクシアは寄り付き後まもなく制限値幅の下限に張り付き、そのまま動きませんでした。東京エレクトロンとニコンも9%を超えて下落。台湾加権指数も一時4%超安と、アジアのメモリー・半導体関連が横並びで売られています。

個別銘柄の下落率 ── キオクシアだけが特別に売られたわけではない

単位:% / ◆印は7月27日の米国市場、それ以外は7月28日のアジア市場

5 10 15 20 キオクシア サムスン電子 SKハイニックス ◆サンディスク 東京エレクトロン ニコン ◆エヌビディア 18.3 約11 約11 11超 9超 9超 約5
キオクシアは終値ベースの下落率(44,550円・前日比▲10,000円)。その他は報道された下落率で、「約」「超」の付いた値は概数のため棒の長さも概略。市場・時間帯が異なる銘柄を1枚に並べているため、厳密な同時点比較ではない。
市場・指数日付下落特記事項
フィラデルフィア半導体株指数7月27日大幅安サンディスク11%超安・エヌビディア約5%安
韓国 KOSPI7月28日一時▲11%8%超下落でサーキットブレーカー発動・20分間停止(今年8度目)
日経平均株価7月28日▲3.95%終値62,364.92円・下げ幅一時3,000円超・約2カ月ぶり安値
台湾 加権指数7月28日一時▲4%超半導体関連中心に下落

「1銘柄の問題」と「市場全体の問題」を分ける

7月17日のストップ安は、急騰の巻き戻しと個別の悪材料が重なったものでした。今回はそこが違います。韓国・台湾・日本のメモリー関連が同時に、しかも同程度の下落率で売られた。個別企業の事情では説明できない下げ方です。こういう日は、その銘柄のニュースを探すより、業界全体に何が起きたのかを先に確かめたほうが早く輪郭がつかめます。

02 ── THE TRIGGERS

3つの疑いが、同じ日に重なった

報道と市場関係者のコメントを整理すると、この日の売りには性質の異なる3つの材料が絡んでいます。どれか1つで18%は動きません。順番に見ていきます。

① AI投資は本当に続くのか ── 7,500億ドルへの疑い

直接のきっかけは、エヌビディアが関与すると報じられた総額7,500億ドル超のAIインフラ案件でした。本来なら半導体需要の追い風になるはずの話が、逆に売り材料として受け止められています。理由は金額の出どころです。AI関連企業どうしが互いに出資し、その資金でまた互いの製品を買う──いわゆる「資金の循環」に見えるのではないか、という疑いが市場に広がりました。バンテージ・グローバル・プライムのヘベ・チェン氏は、設備投資・投資収益率・バリュエーションをめぐる疑念がなお一段と深まっていると指摘しています。フィボナッチ・アセット・マネジメント・グローバルのユン・ジョンイン氏も、AIインフラ支出が今のペースを維持できるのかについて投資家の疑問が深まっているとしています。

② 中国勢の台頭 ── 上場と、露光装置の国産化

同じ日、中国側で2つの動きが伝わりました。ひとつは、DRAM大手の長鑫科技集団傘下のCXMTが上海証券取引所に上場し、調達資金を生産能力の拡大に充てるというもの。もうひとつは、中国の政府系企業が液浸型のDUV(深紫外線)露光装置の製造を始めたという報道です。露光装置は半導体製造の中核にあり、日本・オランダの数社が握ってきた領域でした。実際、中国本土市場では中微半導体設備や瀋陽芯源微電子設備といった装置メーカーの株が上昇しています。T&Dアセットマネジメントの浪岡宏氏は、中国が半導体分野でも技術力を高めていることが日本株の重しになる可能性を指摘しました。

「供給が増える」は、メモリー株にとって最も重い話

キオクシアの利益が急拡大した最大の理由は、AI向けの需要が伸びる一方で供給が追いつかず、メモリー価格が急騰したことにあります。裏を返せば、供給を増やせる主体が現れることは、この構図の前提そのものを揺らすということです。CXMTの上場も装置の国産化も、今日の売上を直接減らす話ではありません。市場が反応したのは、来年・再来年の価格見通しのほうです。

③ 需給 ── 信用倍率36倍超という積み上がり

3つ目は、株価そのものが抱えていた重さです。キオクシアの信用倍率は7月17日時点で36倍を超え、前の週の約24倍から一段と上がっていました。急落局面で買い向かった投資家が信用取引でさらに積み上がった形です。この状態で株価が下げると、含み損の膨らんだ買い方から売りが出て、その売りがまた株価を押し下げる。ストップ安まで一直線に走った値動きの背景には、材料への反応だけでなく、この機械的な連鎖があります。

03 ── THE TRACK

6月22日から36日間で、時価総額は約35兆円消えた

6月22日の終値108,700円が、上場来の最高値でした。そこから44,550円まで、下落率は約59%(算出値)。株数は変わっていないので、時価総額はおよそ59.3兆円から24.3兆円へ縮んだ計算になります。差し引き約35兆円。7月17日のストップ安の時点で「30兆円が消えた」と報じられた水準を、さらに下回りました。

キオクシア株価の軌跡 ── 上場来高値から2度のストップ安まで

単位:円 / 終値ベース / 主要な節目を直線で結んだ概略図

10万 5万 0 6/22 上場来高値 108,700円 7/17 ストップ安 52,110円 7/28 ストップ安 44,550円 6/22 7/17 7/23 7/24 7/27 7/28
6/22終値108,700円・7/17終値52,110円・7/23終値61,880円・7/24終値56,010円・7/27終値54,550円・7/28終値44,550円を直線で結んだ概略図。日々の値動きを再現したものではない。
日付終値前日比出来事
6月22日108,700円──上場来高値(終値ベース)。時価総額は一時60兆円超
7月17日52,110円ストップ安1度目のストップ安。最高値から1カ月弱で半値に
7月23日61,880円戻り高値東芝の変更報告書が提出された日
7月24日56,010円▲9.49%大株主の継続売却が判明し再下落
7月27日54,550円▲2.61%米半導体株安を受けじり安
7月28日44,550円▲18.33%2度目のストップ安。世界同時のメモリー株安

04 ── WHAT'S NEXT

7月31日、数字が出る

キオクシアは7月31日に2027年3月期第1四半期(4〜6月期)の決算を発表する予定です。会社が5月15日に示した見通しは、売上収益1兆7,500億円、営業利益1兆2,980億円、純利益8,690億円。純利益は前年同期のおよそ48倍にあたります。AI向けデータセンター需要とメモリー価格の急騰を、そのまま数字にした内容です。今週はサムスン電子とSKハイニックスの決算も控えており、メモリー3社の実績と見通しが週内に出そろいます。

2026年4〜6月期 会社予想金額補足
売上収益1兆7,500億円データセンター向け需要が旺盛に推移する前提
営業利益1兆2,980億円売上収益に対する利益率は約74%(算出値)
親会社の所有者に帰属する四半期利益8,690億円前年同期の約48倍

ここで注意しておきたいのは、良い決算が出れば株価が戻る、とは限らないという点です。松井証券の窪田朋一郎氏は、投資家の期待値がすでに高すぎて決算が応えられない可能性が大きく、発表後に売り圧力が高まるリスクを指摘しています。一方で、決算そのものはAI需要を背景に強い内容になるとの見方が優勢で、需給要因による売りが一巡すれば業績を材料に株価が戻る、という見立ても同時に存在します。同じ決算に対して、正反対のシナリオが並んでいる状態です。

決算前に確認しておくこと

  • 実績より見通し。4〜6月期の数字は5月時点でほぼ開示済み。焦点は7〜9月期以降のガイダンスとメモリー価格の前提。
  • 設備投資計画。供給を増やす計画は自社の将来売上を増やす一方、業界全体の需給バランスを緩める側にも働く。
  • サムスン電子・SKハイニックスの内容。3社の見通しが揃えば業界全体の絵が描ける。1社だけ強気なら、その前提を疑う材料になる。
  • 需給の解消度合い。信用倍率が下がっているか。売り材料が出尽くしたかどうかは、株価より需給指標のほうが早く教えてくれる。

05 ── SUMMARY

分かっていること、まだ分からないこと

現時点で分かっていること

  • キオクシアは7月28日、44,550円のストップ安で引けた(前日比▲10,000円・▲18.33%)。7月17日以来2度目。
  • 下げは世界同時。KOSPIは8%超安でサーキットブレーカー発動、サムスン電子・SKハイニックスは約11%安、日経平均は▲3.95%。
  • 材料は3つ。AI投資の持続性への疑い、中国勢の供給拡大、信用買い残の積み上がり(7/17時点で信用倍率36倍超)。
  • 上場来高値(6/22終値108,700円)からの下落率は約59%。時価総額の減少は約35兆円(算出値)。

まだ分からないこと

  • 7月31日の決算とガイダンスの中身。強い決算が株価を戻すのか、期待に届かず売られるのかは見方が割れている。
  • 中国勢の露光装置・DRAM増産が、実際にどの時間軸でメモリー価格に効いてくるか。
  • AIインフラ投資の総額が、どこまで実需に裏付けられているか。7,500億ドル案件の全容は未確定。
  • 信用需給の整理がどこまで進んだか。追い証に伴う売りが終わったかどうかは、事後にしか分からない。

号外の視点 ── 3号を並べて見えるもの

第1弾(7/17)では急騰の巻き戻しと悪材料の重なりを、第2弾(7/24)では大株主・東芝の継続売却という需給の背景を扱いました。今回の3本目は、そこに業界全体の構図が加わった回です。1社の物語が、いつのまにか「メモリー市況とAI投資はどこまで続くのか」という業界の問いに置き換わっている。株価が半値以下になる局面では、たいてい理由がひとつではありません。銘柄・需給・業界という3つの層に分けて眺めると、次に何を確認すべきかが決めやすくなります。
▶ 第1弾「ストップ安 ── 急落の構造」 / ▶ 第2弾「大株主・東芝は売り続けていた」

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