号外EXTRA EDITION
2度目のストップ安 ── 倒れたのは1社ではない
東証プライム 285A / 2026年7月28日 東京市場の大引け後 / 公開情報に基づく号外レポート
7月28日、キオクシアは制限値幅の下限で売買が止まったまま引けました。ストップ安は7月17日以来2度目です。 ただし今回は、前回と決定的に違う点がひとつあります。売られたのはキオクシアだけではありませんでした。 韓国ではKOSPIが8%を超えて下落してサーキットブレーカーが発動し、サムスン電子とSKハイニックスはそろって約11%安。 日経平均は2,566円安(▲3.95%)、台湾も4%超下げました。メモリーとAI半導体という同じ場所に、世界中から同時に売りが出た1日です。 この号外では、その日に何が起きたのかを時刻順に並べ直し、値動きの背後にある3つの材料を切り分けます。
7月28日 終値(ストップ安)
最高値からの下落率
日経平均株価
01 ── THE DAY
時刻順に並べると、この日の下げが東京発でないことがはっきりします。起点は前夜の米国市場でした。27日、フィラデルフィア半導体株指数が大幅安となり、データセンター向けNANDフラッシュ大手のサンディスクが11%超下落。エヌビディアも約5%安で引けています。材料として名指しされたのは、エヌビディアが関与すると報じられた総額7,500億ドル超のAIインフラ案件の協議でした。数字が巨額であるほど、市場は「その資金はどこから出て、どこへ回っているのか」と考え始めます。
明けて28日のアジア時間、売りは韓国で一気に噴き出しました。KOSPIは8%を超えて下落してサーキットブレーカーが発動し、20分間の売買停止。再開後の下げ幅は一時11%に達し、サムスン電子とSKハイニックスはそろって約11%安となりました。SKハイニックスの時価総額は、6月に付けた過去最高値から約5,700億ドル減っています。
東京はその流れをそのまま受けました。日経平均は前引け時点で2,884円安、下げ幅は一時3,000円を超え、終値は2,566円27銭安の6万2,364円92銭。約2カ月ぶりの安値です。キオクシアは寄り付き後まもなく制限値幅の下限に張り付き、そのまま動きませんでした。東京エレクトロンとニコンも9%を超えて下落。台湾加権指数も一時4%超安と、アジアのメモリー・半導体関連が横並びで売られています。
個別銘柄の下落率 ── キオクシアだけが特別に売られたわけではない
単位:% / ◆印は7月27日の米国市場、それ以外は7月28日のアジア市場
| 市場・指数 | 日付 | 下落 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| フィラデルフィア半導体株指数 | 7月27日 | 大幅安 | サンディスク11%超安・エヌビディア約5%安 |
| 韓国 KOSPI | 7月28日 | 一時▲11% | 8%超下落でサーキットブレーカー発動・20分間停止(今年8度目) |
| 日経平均株価 | 7月28日 | ▲3.95% | 終値62,364.92円・下げ幅一時3,000円超・約2カ月ぶり安値 |
| 台湾 加権指数 | 7月28日 | 一時▲4%超 | 半導体関連中心に下落 |
7月17日のストップ安は、急騰の巻き戻しと個別の悪材料が重なったものでした。今回はそこが違います。韓国・台湾・日本のメモリー関連が同時に、しかも同程度の下落率で売られた。個別企業の事情では説明できない下げ方です。こういう日は、その銘柄のニュースを探すより、業界全体に何が起きたのかを先に確かめたほうが早く輪郭がつかめます。
02 ── THE TRIGGERS
報道と市場関係者のコメントを整理すると、この日の売りには性質の異なる3つの材料が絡んでいます。どれか1つで18%は動きません。順番に見ていきます。
直接のきっかけは、エヌビディアが関与すると報じられた総額7,500億ドル超のAIインフラ案件でした。本来なら半導体需要の追い風になるはずの話が、逆に売り材料として受け止められています。理由は金額の出どころです。AI関連企業どうしが互いに出資し、その資金でまた互いの製品を買う──いわゆる「資金の循環」に見えるのではないか、という疑いが市場に広がりました。バンテージ・グローバル・プライムのヘベ・チェン氏は、設備投資・投資収益率・バリュエーションをめぐる疑念がなお一段と深まっていると指摘しています。フィボナッチ・アセット・マネジメント・グローバルのユン・ジョンイン氏も、AIインフラ支出が今のペースを維持できるのかについて投資家の疑問が深まっているとしています。
同じ日、中国側で2つの動きが伝わりました。ひとつは、DRAM大手の長鑫科技集団傘下のCXMTが上海証券取引所に上場し、調達資金を生産能力の拡大に充てるというもの。もうひとつは、中国の政府系企業が液浸型のDUV(深紫外線)露光装置の製造を始めたという報道です。露光装置は半導体製造の中核にあり、日本・オランダの数社が握ってきた領域でした。実際、中国本土市場では中微半導体設備や瀋陽芯源微電子設備といった装置メーカーの株が上昇しています。T&Dアセットマネジメントの浪岡宏氏は、中国が半導体分野でも技術力を高めていることが日本株の重しになる可能性を指摘しました。
キオクシアの利益が急拡大した最大の理由は、AI向けの需要が伸びる一方で供給が追いつかず、メモリー価格が急騰したことにあります。裏を返せば、供給を増やせる主体が現れることは、この構図の前提そのものを揺らすということです。CXMTの上場も装置の国産化も、今日の売上を直接減らす話ではありません。市場が反応したのは、来年・再来年の価格見通しのほうです。
3つ目は、株価そのものが抱えていた重さです。キオクシアの信用倍率は7月17日時点で36倍を超え、前の週の約24倍から一段と上がっていました。急落局面で買い向かった投資家が信用取引でさらに積み上がった形です。この状態で株価が下げると、含み損の膨らんだ買い方から売りが出て、その売りがまた株価を押し下げる。ストップ安まで一直線に走った値動きの背景には、材料への反応だけでなく、この機械的な連鎖があります。
03 ── THE TRACK
6月22日の終値108,700円が、上場来の最高値でした。そこから44,550円まで、下落率は約59%(算出値)。株数は変わっていないので、時価総額はおよそ59.3兆円から24.3兆円へ縮んだ計算になります。差し引き約35兆円。7月17日のストップ安の時点で「30兆円が消えた」と報じられた水準を、さらに下回りました。
キオクシア株価の軌跡 ── 上場来高値から2度のストップ安まで
単位:円 / 終値ベース / 主要な節目を直線で結んだ概略図
| 日付 | 終値 | 前日比 | 出来事 |
|---|---|---|---|
| 6月22日 | 108,700円 | ── | 上場来高値(終値ベース)。時価総額は一時60兆円超 |
| 7月17日 | 52,110円 | ストップ安 | 1度目のストップ安。最高値から1カ月弱で半値に |
| 7月23日 | 61,880円 | 戻り高値 | 東芝の変更報告書が提出された日 |
| 7月24日 | 56,010円 | ▲9.49% | 大株主の継続売却が判明し再下落 |
| 7月27日 | 54,550円 | ▲2.61% | 米半導体株安を受けじり安 |
| 7月28日 | 44,550円 | ▲18.33% | 2度目のストップ安。世界同時のメモリー株安 |
04 ── WHAT'S NEXT
キオクシアは7月31日に2027年3月期第1四半期(4〜6月期)の決算を発表する予定です。会社が5月15日に示した見通しは、売上収益1兆7,500億円、営業利益1兆2,980億円、純利益8,690億円。純利益は前年同期のおよそ48倍にあたります。AI向けデータセンター需要とメモリー価格の急騰を、そのまま数字にした内容です。今週はサムスン電子とSKハイニックスの決算も控えており、メモリー3社の実績と見通しが週内に出そろいます。
| 2026年4〜6月期 会社予想 | 金額 | 補足 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 1兆7,500億円 | データセンター向け需要が旺盛に推移する前提 |
| 営業利益 | 1兆2,980億円 | 売上収益に対する利益率は約74%(算出値) |
| 親会社の所有者に帰属する四半期利益 | 8,690億円 | 前年同期の約48倍 |
ここで注意しておきたいのは、良い決算が出れば株価が戻る、とは限らないという点です。松井証券の窪田朋一郎氏は、投資家の期待値がすでに高すぎて決算が応えられない可能性が大きく、発表後に売り圧力が高まるリスクを指摘しています。一方で、決算そのものはAI需要を背景に強い内容になるとの見方が優勢で、需給要因による売りが一巡すれば業績を材料に株価が戻る、という見立ても同時に存在します。同じ決算に対して、正反対のシナリオが並んでいる状態です。
05 ── SUMMARY
第1弾(7/17)では急騰の巻き戻しと悪材料の重なりを、第2弾(7/24)では大株主・東芝の継続売却という需給の背景を扱いました。今回の3本目は、そこに業界全体の構図が加わった回です。1社の物語が、いつのまにか「メモリー市況とAI投資はどこまで続くのか」という業界の問いに置き換わっている。株価が半値以下になる局面では、たいてい理由がひとつではありません。銘柄・需給・業界という3つの層に分けて眺めると、次に何を確認すべきかが決めやすくなります。
▶ 第1弾「ストップ安 ── 急落の構造」 / ▶ 第2弾「大株主・東芝は売り続けていた」