号外EXTRA EDITION
30年ぶりの水準は、株の何を変えるのか
2026年9月1日 新発10年物国債利回りが一時3.000%(夜間取引で3.005%)/同じ日、日経平均は96円安、TOPIXは9日続伸
9月1日、日本の長期金利が3%に乗りました。新発10年物国債の利回りが一時3.000%、夕方の夜間取引では3.005%。この水準は1996年9月以来、およそ30年ぶりです。 ニュースの見出しはここまで。ただ、株を持っている側から見ると、面白いのはその先です。 同じ日の東京市場で、日経平均株価は96円59銭安の6万6,215円34銭で終わり、TOPIXは25.57ポイント高の4,181.86で9日続伸しました。 片方が下げて、片方が上げる。しかも日経平均を構成する225銘柄のうち、上がったのは170銘柄です。指数が下がったのに、中身は7割以上が上がっていた。 金利が上がると株が下がる、という一行では説明がつきません。この号外では、9月1日に何が起きたのかを追いながら、長期金利が株のどこに、どういう順番で効くのかを整理します。
新発10年物国債利回り(長期金利)
日経平均株価 9月1日終値
TOPIX 9月1日終値
01 ── WHAT HAPPENED
9月1日の債券市場は、前日の米金利上昇を引き継いで始まりました。日中に新発10年債の利回りが一時3.000%に到達し、午後は2.990%前後で推移。夕方の夜間取引で前日比0.065%高い3.005%まで上がりました。3%という数字そのものに意味があるわけではないのですが、1996年9月以来という肩書きが付くと市場の空気は変わります。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア債券ストラテジスト、大塚崇広氏はこの動きを「想定の範囲内だ」と評したうえで、「底流には財政懸念もあるのだろう」と述べています。急に何かが壊れたのではなく、ここ数か月積み上がってきた材料が3%という節目で可視化された、という受け止め方です。
翌9月2日には、日銀の高田審議委員が機動的に利上げを進めるべきだとの考えを示しました。市場が織り込みにいっているものが、当局側の発言でも裏打ちされた形です。
1996年9月といえば、住専処理が政治問題になり、翌年に消費税が3%から5%へ上がる前の年です。日本の長期金利はそこから長い下り坂に入り、2016年にはマイナスまで沈みました。つまり今の相場に参加している人の大半は、3%の世界を実務で経験していない。過去のチャートに参考になる形がほとんど残っていないという意味で、ここから先は前例が薄い区間に入ります。断言できるのは3%を付けたという事実までで、その先の水準は正直まだ誰にも分かりません。
02 ── FOUR DRIVERS
この日の金利上昇は、単一の理由では説明できません。性質の違う4つの押し上げ材料が、たまたま同じ日に同じ向きで働きました。分けて見ておくと、今後どれが剥がれたら金利が落ち着くのかを判断しやすくなります。
| 押し上げ材料 | 中身 | 株への当たり方 |
|---|---|---|
| 米国の金利 | 前日に上昇 | FRBのウォーシュ議長が早期利上げに含みを持たせた講演を行い、米長期金利が上昇。日本の債券市場に波及した |
| 日銀の利上げ観測 | 9月17〜18日 会合 | 政策金利は現在1.00%。会合での利上げ見通しが大勢を占め、国債売りにつながった |
| 財政拡張 | 143兆円前後 | 2027年度予算の概算要求が過去最大の見通し。高市政権の積極財政姿勢が国債増発の連想を呼んだ |
| 原油とインフレ | 中東情勢 | 米軍によるイラン軍事施設攻撃で供給リスクが意識され原油価格が上昇。インフレ警戒が金利上昇圧力に |
4つのうち、株にとって性質が最も悪いのは3つ目の財政です。景気が良いから金利が上がるのなら、企業利益も一緒に伸びるので株は耐えられます。ところが「国の信用が心配だから金利が上がる」場合、企業利益は増えないまま割引率だけが上がる。同じ金利上昇でも、理由によって株への効き方が変わるのはここです。9月1日の相場は、この2種類の材料が混ざっていました。
日経QUICKニュースが3%到達を受けて実施した緊急サーベイでは、年内のピークとして4%近辺への上昇を挙げる声が出ています。日銀の追加利上げを意識するという回答も並びました。あくまで市場参加者の予想であって決まった話ではありませんが、3%が上限だと考えている人はもう多くない、ということは読み取れます。
03 ── SPLIT MARKET
9月1日の東京株式市場は、朝方に一時700円を超える下げ幅になりました。前日の米国株安と金利上昇を受けて、半導体関連を中心に売りが先行したためです。ところが後場に入ると、割安株や商品市況関連に買いが入り、日経平均は96円59銭安まで戻して引けています。売買代金は7兆5,000億円。ドル円は159円92銭とやや円安方向でした。
9月1日の主要3指数 ── 同じ日に、逆を向いた
前日比・% / 上昇=ブルー、下落=アンバー
日経平均だけが取り残された理由は、指数の作り方にあります。日経平均は株価の高い銘柄の影響が大きい平均株価で、この日は東京エレクトロン1銘柄で指数を約191円押し下げました。同社株は1,900円安の5万4,540円。逆にソフトバンクグループが約49円押し上げています。一方のTOPIXは時価総額で加重した指数なので、値がさのハイテク1銘柄に振り回されにくい。225銘柄のうち170銘柄が上昇していたという事実のほうが、その日の市場の地合いを正直に映しています。
9月1日に買われた業種(東証33業種・上昇率上位)
前日比・%
買われた顔ぶれを見ると、この日の相場の性格がはっきりします。電気・ガスが4.28%高。鉱業3.81%高、石油・石炭3.67%高は原油高がそのまま効いた業種です。鉄鋼3.61%高も含めて、いずれも今期の利益がすでに手元にあり、株価が資産や現在の稼ぎで説明できる業種でした。逆に売られたのはサービス業と非鉄金属。そして東証グロース市場250指数は1.47%安と、主要指数の中で最も大きく下げています。
金利上昇=銀行株買い、という連想は正しい方向ではあります。ただ9月1日の三菱UFJフィナンシャル・グループは、前日終値3,680円を挟んで一進一退でした。米国株安を受けた利益確定売りが先行し、金利の先高観がそれを下から支えた、という綱引きです。金融株は朝方に売られた側に入っています。材料が良くても、直前まで買われていた銘柄はいったん利益確定に押される。教科書どおりに動くのは、たいてい数日から数週間の単位で均してからです。
04 ── MECHANISM
長期金利の上昇は、3つの別々の道を通って株価に届きます。効き始める速さも、当たる業種も違う。9月1日の値動きは、この3本のうち1本目と2本目が同時に走った結果でした。
長期金利の上昇が株価に届く3つの経路
当方の整理 / 9月1日の実際の反応を各経路の下に添えた
株価は、その会社がこれから稼ぐ利益を現在価値に引き直したものです。金利はその割引計算の分母に入るので、金利が上がると分母が膨らみ、遠い将来の利益ほど価値が縮みます。10年後の大きな利益を期待して買われている会社ほど、痛みが大きい。9月1日にグロース250が主要指数で最も下げ、半導体関連が売り先行になったのはこれです。反応が当日に出るので、金利のニュースと株価の関係が一番見えやすい経路でもあります。
銀行は短い金利で預金を集め、長い金利で貸します。この差が広がると本業の儲けが増える。日銀の政策金利は現在1.00%で、ここからさらに上がるとの見方が金利上昇の一因になっていました。保険会社も同様で、長期の運用利回りが上がることは将来の収益改善につながります。ただし前述のとおり、この経路は「良い材料だから今日買われる」とは限りません。すでに何か月も買われてきたセクターなので、日々の値動きは需給に左右されます。
大手銀行2行が9月から住宅ローンの変動金利を引き上げました。長期金利に連動するのは固定金利のほうですが、政策金利の上昇局面では変動も動きます。家計の可処分所得が削られれば、数四半期あとに小売や外食の売上に出る。企業側も、借入の多い会社ほど利払いが重くなります。不動産、電力・ガスのような設備投資が重い業種、そして中小型の高債務企業。この経路だけは株価に出るのが遅く、そのぶん見落とされやすいと思っています。
景気が強くて金利が上がるなら、企業の利益も増えるので株は持ちこたえます。物価が上がって中央銀行が引き締めるから金利が上がるなら、株は割引率の分だけ削られます。国の財政が心配されて金利が上がるなら、利益は増えないまま割引率だけ上がり、通貨や株の両方に重くのしかかる。9月1日は、この3つが混ざった日でした。だから指数によって、業種によって、反応がばらけたわけです。次に金利が動いたときは、まず「なぜ上がったのか」を確認する。それだけで株の反応の読み筋が変わります。
05 ── WHAT'S NEXT
直近で最大の日程は、9月17日から18日にかけての日銀金融政策決定会合です。市場では利上げの見方が大勢を占めていました。ここで実際に上がるのか、上がった場合に声明や総裁会見が次の一手をどう示唆するのか。すでに織り込まれているぶん、決定の中身より、その先の道筋の書きぶりで金利が動く展開になりやすい局面です。
| 確認するもの | いまの位置 | 見方 |
|---|---|---|
| 日銀 金融政策決定会合 | 9月17〜18日 | 政策金利は現在1.00%。利上げ観測が大勢。会合後の声明と会見の表現に注目 |
| 長期金利の水準 | 3.005% | 緊急サーベイでは年内に4%近辺との声も。3%が天井という前提は置きにくい |
| 2027年度予算 | 概算要求143兆円前後 | 政府案が固まるのは12月末。財政拡張の度合いが金利に跳ね返る |
| 原油価格 | 中東情勢次第 | 上がればインフレ経由で金利上昇圧力。資源・エネルギー株には追い風 |
| 米国の金利 | 上昇基調 | FRB議長が早期利上げに含み。日本の金利は米国の動きに引っ張られる |
| ドル円 | 159円92銭 | 9月1日時点。日米の金利差の縮小がどこまで円高に効くか |
TOPIXの9日続伸を見て、相場の主役が成長株から割安株へ入れ替わったと結論づけるのは早い気がします。9月1日の東京エレクトロンの下げは、前日の米国株安という別の材料でも説明がつくからです。金利の上昇が本当に業種の序列を書き換えたのかは、日銀会合を通過したあと、数週間の値動きで確かめるほうが確実です。ここは決め打ちしない場面だと思います。
06 ── SUMMARY
この日いちばん象徴的だったのは、日経平均が96円下げた裏で225銘柄中170銘柄が上がっていた、という数字です。指数の1本の線だけを見ていると、金利上昇で市場全体が売られたように読めてしまう。実際に起きていたのは、資金がグロースから資源・素材・インフラへ移ったことでした。 金利の水準そのものより、その上がり方の理由と、資金がどの業種へ動いたか。3%の世界で持ち株を点検するなら、この2つを先に確かめるほうが役に立つはずです。日銀会合の結果と、そこからの資金の向きは、また号外で扱います。