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鏡面研磨された円盤状の高純度スパッタリングターゲットと、その脇に置かれた圧延銅箔のロール

EARNINGS REVIEW

JX金属

2027年3月期 第1四半期 決算レビュー

証券コード 5016(東証プライム)対象期間 2026年4月〜6月決算発表 2026年8月6日

営業利益814億円。前年同期の296億円から2.75倍になった。同じ日に通期の営業利益見通しも1,900億円から2,320億円へ420億円引き上げている。数字だけ並べれば、文句のつけようがない四半期に見える。 ところが株価は、決算が出た8月6日の15時24分時点で4,121円、前日比△5.26%で終えている。増益518億円の中身を分解すると、その理由がだいたい見えてくる。チリの銅鉱山権益を売った一回きりの利益が191億円、円安と銅価の上昇が運んできた分が265億円。会社が成長の軸に据える半導体材料と情報通信材料——「フォーカス事業」の増益は、113億円だ。

売上高

2,606億円
+36.2%前年同期比

営業利益

814億円
+175.5%利益率 31.3%

親会社所有者帰属 四半期利益

531億円
+181.3%EPS 56円80銭

通期 営業利益見通し

2,320億円
+420億円5月公表から上方修正
フォーカス事業とベース事業とは ── この会社を読むときの最初の分け方
JX金属は自社の事業を2つに分けて説明します。フォーカス事業が半導体材料セグメントと情報通信材料セグメント。半導体用スパッタリングターゲットや圧延銅箔など、技術で差別化された先端素材の領域で、長期ビジョンで成長の中核に置かれています。ベース事業が基礎材料セグメント。銅の製錬・リサイクルと、チリなどの鉱山権益を持つ資源事業です。こちらは銅の国際価格と為替で損益が大きく動きます。会社は「装置産業型企業から技術立脚型企業への転身」を掲げており、2027年度には連結営業利益の67%以上をフォーカス事業で稼ぐことを目標にしています。今1Qの実績は、この比率が逆を向きました。
半導体用スパッタリングターゲットとは ── この会社の看板製品
半導体ウエハの表面にナノメートル単位の金属膜を張るための、円盤状の高純度金属材料です。真空中でイオンを打ち込んで材料を弾き飛ばし、その粒子をウエハに降り積もらせて配線や電極の膜を作ります。この号の表紙に写っている円盤がそれにあたります。JX金属はこの分野で世界シェア約65%(当社推定)を持つ首位メーカー。AIサーバ向けの先端ロジック半導体や大容量メモリが増えれば、そのぶん使われる量が増える構造です。今1Qの販売数量は前年同期比+26%でした。
LME銅価と為替 ── この会社の利益を外から動かす2つのつまみ
LMEはロンドン金属取引所の略で、銅の国際価格の基準になります。今1Qの期中平均は1ポンド当たり604セントで、前年同期の432セントから172セント高。5月13日には史上最高値の639セントを記録しました。為替は期中平均1ドル159円で前年同期から14円の円安です。会社が開示している感応度(2026年7月以降)では、為替が5円円安になると営業利益が年間70億円、銅価が10セント/ポンド上がると35億円増えます。どちらも自社の努力とは無関係に動くつまみで、逆に振れれば同じだけ利益を削ります。
持分法による投資利益とは ── 営業利益814億円の4割を占めている項目
連結子会社にはしていないけれど、出資比率などから経営に影響力を持つ会社(関連会社)の利益のうち、持ち分に応じた金額を自社の損益に取り込む会計処理です。JX金属はIFRS(国際財務報告基準)を採用しており、この持分法による投資利益が営業利益の内側に入ります。今1Qは329億円で、前年同期の136億円から193億円増えました。営業利益814億円に対する比率は40.4%(算出)。自社の工場が稼いだ利益ではなく、出資先から取り込んだ利益がこれだけの重さを持っている点は、数字を読むときに頭に入れておきたいところです。
進捗率とは ── 通期見通しに対する四半期実績の割合
四半期の実績を通期見通しで割った値です。4四半期が均等なら25%が目安になりますが、季節性や計画の置き方でずれます。今1Qは売上高25.4%、営業利益35.1%、税引前利益36.0%、親会社所有者帰属利益37.6%(いずれも算出)。売上はほぼ4分の1ちょうどなのに、利益だけが3割台後半まで進んでいます。この差は、1Qに集中した一過性の利益と、下期に想定されている鉱山の減産で説明がつきます。
減配なのに総還元性向151% ── 今期の株主還元が読みにくい理由
2027年3月期の年間配当予想は20円。前期の31円から11円の減配です。ところが会社は同じ資料で、今期の総還元性向は約151%と説明しています。総還元性向は「配当+自己株式取得」が当期利益の何%にあたるかを示す指標。JX金属は今期、1,949億円の自己株式公開買付け(TOB)を実施しており、これを含めると株主に返す総額は利益を大きく上回ります。会社の方針は「連結配当性向25%程度を基本、配当の下限は20円/株。ただし大規模な自己株式取得を行う場合は総還元性向も考慮して別途検討する」。今期は自己株取得を優先して、配当は下限に置いた形です。

01 ── PERFORMANCE

売上+36.2%に対し営業利益は+175.5%。利益率が15.5%から31.3%へ跳ねた

売上高2,606億円は前年同期の1,913億円から693億円の増加。円安と銅価上昇による増収効果に、半導体用スパッタリングターゲットと圧延銅箔の増販が乗った。利益の伸び方は増収の比ではない。営業利益は296億円から814億円へ518億円増え、営業利益率は15.5%から31.3%へ15.8ポイント上がった(算出)。

ここまで利益率が動いた理由は、費用の側にはない。売上原価率は78.0%から77.5%へほぼ横ばい、販売費及び一般管理費も259億円から289億円へ30億円増えただけだ(算出)。跳ねたのは営業利益の内側にある2つの項目である。持分法による投資利益が136億円から329億円へ、その他の収益が14億円から207億円へ。この2つで385億円の増加になり、518億円の増益の4分の3を占める(算出)。

売上高と営業利益 ── 前年同期との比較

単位:億円 / 2026年3月期1Q vs 2027年3月期1Q

3,000 2,000 1,000 0 1,913 2,606 296 814 売上高 営業利益
2025年4-6月 2026年4-6月
決算短信の百万円単位の開示値を億円に丸めて表示(売上高191,276→260,604百万円、営業利益29,558→81,446百万円)。両者は同じ軸で描いているため、営業利益の棒は小さく見える。
連結(2026年4-6月)前年同期実績増減率
売上高1,913億円2,606億円+36.2%
売上総利益420億円587億円+39.9%(算出)
うち持分法による投資利益136億円329億円+140.8%(算出)
うちその他の収益14億円207億円+193億円(算出)
営業利益296億円814億円+175.5%
税引前四半期利益285億円796億円+179.9%
四半期利益232億円604億円+160.0%
親会社所有者帰属四半期利益189億円531億円+181.3%
基本的1株当たり四半期利益20円35銭56円80銭+179.1%(算出)
四半期包括利益126億円764億円+506.7%

持分法による投資利益とその他の収益は、いずれも営業利益を算出する過程に含まれる項目。売上総利益は売上高から売上原価を引いた金額で、この2項目は含まない。

その他の収益が193億円増えた正体

会社は決算説明資料で、今1Qの一過性要因として「カセロネス一部権益売却益 +190億円」を挙げている。2026年4月に実施したSCM Minera Lumina Copper Chile株式の一部譲渡によるものだ。損益計算書の「その他の収益」の増加額193億円とほぼ一致する(算出)ので、この一過性利益はここに乗っていると読める。四半期利益604億円のうち、この190億円は来期には繰り返されない。

02 ── BRIDGE

518億円の増益を分解する。外部環境と一回きりの利益が456億円、事業活動が生んだのは62億円

会社は営業利益の増減を要因ごとに開示している。前年1Qの296億円が出発点。ここに一過性のカセロネス売却益が191億円、為替と銅価などの市況要因が265億円、フォーカス事業の数量増が78億円積み上がり、ベース事業の数量減で32億円落ち、コスト差等で16億円戻して814億円に着地した。

この並びの意味は、はっきりしている。増益518億円のうち、一過性の売却益と市況で456億円、率にして88.0%(算出)。残る数量差とコスト差、つまり事業活動が生んだ増益は、フォーカス事業の数量増78億円とコスト差等16億円からベース事業の数量減32億円を引いて差し引き62億円。全体の12.0%(算出)にとどまる。

営業利益の増減分析 ── 296億円から814億円まで

単位:億円 / 会社開示の要因分解(2027年3月期第1四半期決算説明資料 P.11)

800 600 400 200 0 296 +191 +265 +78 △32 +16 814 前年1Q 一過性カセロネス売却益 為替・銅価等 数量差フォーカス 数量差ベース コスト差等 今1Q
会社開示の増減分析をそのまま図示。296+191+265+78-32+16=814億円で一致する。市況要因265億円の内訳は、基礎材料セグメントで為替+30億円・銅価等+210億円、情報通信材料で為替+19億円、半導体材料で+8億円。

為替159円、銅価604セント ── 外部環境が最大限に味方した四半期だった

円の対米ドル相場は期初1ドル159円で始まり、期末には162円。期中平均は前年同期比14円安の159円になった。銅のLME価格は期初557セントで始まり、5月13日に史上最高値の639セントをつけ、期末は605セント。期中平均は前年同期比172セント高の604セントである。会社の感応度に照らせば、この2つが揃って動いた効果が265億円という数字になる。

裏を返すと、この265億円は来期も同じだけ出るとは限らない。会社が通期見通しの前提に置いているのは為替157円(7月以降160円、10月以降155円)、銅価586セント(7月以降580セント)。1Qの実績である159円・604セントより、どちらも保守的な水準だ。

03 ── SEGMENT

営業利益814億円の70%は基礎材料。「技術立脚型企業への転身」を掲げる会社の、当面の稼ぎ頭はまだ銅にある

報告セグメントは半導体材料・情報通信材料・基礎材料の3つ。今1Qの営業利益を並べると、基礎材料が568億円で、連結814億円の69.8%を占める(算出)。前年同期の146億円から422億円増えて、増益518億円の8割強がここから出た計算になる。

ただしこの568億円には、カセロネスの売却益190億円が入っている。これを除いた378億円が、銅の製錬・リサイクルと資源事業が四半期で稼いだ実力ということになる(算出)。それでも前年の146億円の2.6倍だ。銅価172セント高の効きが、いかに大きいかがわかる。

セグメント別の営業利益 ── 前年同期との比較

単位:億円 / 半導体材料と情報通信材料がフォーカス事業、基礎材料がベース事業

600 400 200 0 85 144 77 131 146 568 半導体材料 情報通信材料 基礎材料 フォーカス事業 フォーカス事業 ベース事業
2025年4-6月 2026年4-6月
決算説明資料の億円表示による。このほか「その他・事業共通費用等」が△12→△29億円で、合計が連結営業利益296→814億円になる。基礎材料の568億円にはカセロネス一部権益の売却益190億円が含まれる。
セグメント(2026年4-6月)売上高前年比営業利益前年比利益率
半導体材料521億円+34%144億円+69%27.6%
情報通信材料931億円+19%131億円+70%14.1%
基礎材料1,237億円+65%568億円+289%45.9%
その他・事業共通費用等△83億円△29億円
合計2,606億円+36%814億円+175%31.3%

増減率は会社開示。利益率は営業利益÷売上高(算出)。基礎材料の利益率45.9%は売却益190億円を含む値で、これを除くと30.6%(算出)。

半導体材料 ── 増益59億円の9割は数量が作った

3セグメントのなかで、内容がいちばん素直なのはここだ。売上521億円で+34%、営業利益144億円で+69%。利益率27.6%(算出)は3セグメントで基礎材料に次ぐ水準だが、こちらには一過性の売却益が入っていない。

会社の差異分析では、増益59億円の内訳は為替+8億円、数量差+54億円、コスト差等△3億円。数量が91.5%を作っている(算出)。事業別に開くと、薄膜材料(半導体用ターゲット、磁性材ターゲット、InP基板など)が売上325→456億円、営業利益84→153億円と伸びた一方、タンタル・ニオブは営業利益3億円から11億円の赤字へ転落している。キャパシタ向けタンタル粉末の販売数量は+89%だったが、ユーロ高の影響で採算が悪化した。

情報通信材料 ── 東邦チタニウムの100%子会社化が効き始めた

売上931億円で+19%、営業利益131億円で+70%。事業別には、機能材料(圧延銅箔、チタン銅、超微粉ニッケルなど)が営業利益57→89億円、東邦チタニウム・タツタ電線などが20→42億円。後者は前年比で2.1倍になっており、増益54億円の4割がここから出ている(算出)。

東邦チタニウムは株式交換により2026年6月から100%子会社になった。スポンジチタン、半導体用ターゲット向けの高純度チタン、MLCC(積層セラミックコンデンサ)向けの超微粉ニッケルを手がける会社で、AIサーバ向けMLCC市場の成長率は年20〜40%(当社推定、2025〜2035年のCAGR)と見込まれている。タツタ電線は2024年11月から100%子会社。AIサーバ・データセンター向けの漏水センサが急伸しており、2026年8月に2025年度比3割増の能力増強を決めた。

04 ── PRODUCTS

AIデータセンターが数量に届いている。ターゲット+26%、チタン銅+42%、タンタル粉末+89%

数量の伸びを製品別に見ると、この会社のどこにAI投資が当たっているかがはっきりする。半導体用ターゲットが+26%、キャパシタ向けタンタル粉末が+89%、AIサーバ向けの高機能銅合金であるチタン銅が+42%。一方で、スマートフォン向けが主戦場の圧延銅箔は+3%と穏やかだ。伸びているのは、データセンターの側にある製品である。

主な製品の販売数量(前年同期比)セグメント1Q実績通期見通し(8月公表)
半導体用ターゲット半導体材料+26%+21%(5月公表 +19%)
磁性材ターゲット半導体材料+8%+8%(5月公表 +7%)
インジウムリン(InP)基板半導体材料+8%+16%(5月公表 +13%)
キャパシタ向けタンタル粉末半導体材料+89%
圧延銅箔情報通信材料+3%+5%(5月公表 +5%)
チタン銅情報通信材料+42%+33%(5月公表 +32%)

決算説明資料P.5より。会社は半導体用ターゲット・磁性材ターゲット・InP基板・チタン銅の通期見通しを5月公表から引き上げた。タンタル粉末は低収益品の減販を織り込むため、通期の数量見通しは1Qの伸びと連動しない。

能力増強は2026年度下期から2027年度にかけて集中する

  • 半導体用ターゲット:ひたちなか工場で2025年度比1.3倍。あわせて最終工程の現地加工能力を台湾1.4倍・韓国2倍。いずれも2027年度から順次。
  • 磁性材ターゲット:磯原工場で1.2倍。2026年度下期。
  • InP基板:磯原・ひたちなか工場で2025年度比7〜10倍。2026年度下期から順次。
  • タンタル粉末:タイで1.5倍。2027年前半から順次。

通期の投融資見通しは5月公表の1,140億円から1,350億円へ、210億円引き上げられた。会社は理由を「生産能力増強投資を反映」としている。1Qの投融資実績は256億円。増産の現金支出は、ここから本格化する。

InP基板の7〜10倍増産が意味するもの

能力増強計画のなかで倍率が突出しているのがインジウムリン(InP)基板だ。光通信用の受発光素子に使われる単結晶基板で、データセンター内の配線が電気から光へ置き換わるほど需要が増える。会社は、AIサーバの世代が進むにつれて通信接続距離が長くなり、ラック内・ラック間・データセンター間と光通信の適用範囲が広がることで、光トランシーバーの使用数量そのものが増えると説明している。今1Qの数量は+8%だが、通期見通しは+16%へ引き上げられた。増産が効いてくるのは2026年度下期からだ。

05 ── GUIDANCE

通期は営業利益を420億円引き上げて2,320億円へ。ただし増額分の96%は為替と銅価が持ってきた

同日に出た業績予想の修正は、金額としては大きい。売上高9,300億円→1兆250億円(+950億円、+10.2%)、営業利益1,900億円→2,320億円(+420億円、+22.1%)、親会社所有者帰属当期利益1,140億円→1,410億円(+270億円、+23.7%)。前期実績と比べれば、売上+15.9%、営業利益+32.6%、当期利益+34.7%になる。

問題は中身だ。会社の差異分析によれば、営業利益の増額420億円のうち為替・銅価等が402億円。率にして95.7%(算出)。前提を為替150円→157円、銅価520セント→586セントへ引き上げたことによる。事業要因はフォーカス事業の数量差+30億円と、販売単価改善などを含むコスト差等+81億円で、チリの天候不良による鉱山減産▲93億円がこれを打ち消している。

通期営業利益見通しの修正 ── 1,900億円から2,320億円まで

単位:億円 / 会社開示の要因分解(2026年5月11日公表 vs 2026年8月6日公表)

2,400 1,800 1,200 600 0 1,900 +402 +30 △93 +81 2,320 5月公表 為替・銅価等(為替+130/銅価+270) 数量差フォーカス 数量差ベース(鉱山減産) コスト差等 8月公表
1,900+402+30-93+81=2,320億円で一致する。コスト差等+81億円の内訳は、販売単価改善+25億円、中東危機影響の緩和+20億円、硫酸マージン改善+15億円、在庫関連・コスト差等+20億円。
2027年3月期 通期見通し前期実績5月11日公表8月6日修正修正率
売上高8,846億円9,300億円10,250億円+10.2%
営業利益1,750億円1,900億円2,320億円+22.1%
税引前利益1,691億円1,780億円2,210億円+24.2%
親会社所有者帰属当期利益1,046億円1,140億円1,410億円+23.7%
基本的1株当たり当期利益112円94銭125円97銭155円80銭+23.7%
うちフォーカス事業 営業利益710億円1,000億円1,000億円
うちベース事業 営業利益1,240億円1,470億円+18.5%
前提為替レート(平均)150円/USD157円/USD7円 円安
前提LME銅価(平均)520¢/lb586¢/lb+66¢/lb

修正率は5月11日公表比。フォーカス事業の営業利益見通し1,000億円は5月公表から据え置き(内訳は半導体材料500→610億円、情報通信材料320→390億円へ引き上げ、その他・共通費用の変動で相殺)。前期実績のセグメント別営業利益はフォーカス事業のみ決算説明資料に記載。

進捗率は利益だけが3割台後半。下期に鉱山の減産が待っている

1Qの実績を通期見通しで割ると、売上高25.4%に対して、営業利益35.1%、税引前利益36.0%、親会社所有者帰属利益37.6%(いずれも算出)。売上はきっちり4分の1なのに、利益だけが大きく先行している。

この差は上振れ余地とは限らない。1Qにカセロネス売却益190億円が集中しており、これを差し引いた営業利益624億円で計算し直すと進捗率は26.9%(算出)まで下がる。さらに通期見通しには、チリの天候不良による鉱山減産▲93億円が下期側に織り込まれている。会社が利益の進捗を4倍して考えていないことは、修正後の数字そのものが示している。

通期見通しに対する第1四半期の進捗率

単位:% / 点線=1年の1/4(25%)

25%(1年の1/4) 売上高 営業利益 税引前利益 四半期利益 親会社帰属利益 25.4% 35.1% 36.0% 34.7% 37.6%
第1四半期実績÷通期見通し(修正後)の算出値。営業利益からカセロネス売却益190億円を除いた624億円で計算すると、進捗率は26.9%になる(算出)。

中長期目標に対する立ち位置

会社は2027年度(2028年3月期)の目標として、連結営業利益率12〜17%、フォーカス事業の営業利益構成比67%以上、半導体材料セグメント45%以上、ROE10%以上を掲げている。2026年度見通しベースの実績値は、連結営業利益率22.6%、ROE19.8%と、この2つはすでに目標を大きく超える。一方でフォーカス事業の営業利益構成比は40%、半導体材料は25%。構成比の目標には距離がある。

営業利益の推移 ── 連結とフォーカス事業

単位:億円 / 2026年度は8月6日修正後の見通し

2,400 1,600 800 0 862 273 1,125 518 1,750 710 2,320 1,000 2023年度 2024年度 2025年度 2026年度 実績 実績 実績 見通し
連結営業利益 うちフォーカス事業
決算説明資料P.4・P.33より。フォーカス事業の営業利益は2023年度の273億円から2026年度見通し1,000億円へ。会社が示す2023〜2026年度のCAGRは連結39%、フォーカス事業54%。

06 ── MARKET VIEW

【市場の反応】420億円の上方修正を出した日に、株価は5.26%下げた

8月6日15時24分時点の株価は4,121円、前日比△229円で△5.26%。前日8月5日の終値は4,350円だった。営業利益を420億円引き上げた日の反応としては、素直ではない。

手がかりのひとつが、通期のコンセンサス予想との比較にある。株予報Proが同日時点で掲載しているIFISコンセンサスは、売上高9,638億円、経常(税引前)利益2,263億円、当期利益1,516億円。会社の修正後の見通しは売上高1兆250億円、税引前利益2,210億円、親会社所有者帰属当期利益1,410億円。売上は市場予想を6.4%上回った一方、税引前利益は2.4%、当期利益は7.0%下回っている(いずれも算出)。市場はすでに、今回の修正と同等かそれ以上の利益を織り込んでいたことになる。

通期の税引前利益 ── 前期実績・会社見通し・市場予想

単位:億円 / 市場予想は株予報Pro掲載のIFISコンセンサス(2026年8月6日時点)

2,400 2,000 1,000 0 1,691 1,780 2,210 2,263 前期実績 5月公表 8月修正 市場予想
2026年3月期 実績 会社見通し(5月11日) 会社見通し(8月6日修正) 市場予想(アナリスト平均)
市場予想は株予報Pro掲載のIFISコンセンサス(2026年8月6日時点、経常利益226,344百万円)。IFRS採用企業のため、経常利益の欄には税引前利益が対応する。会社の修正後見通し2,210億円は市場予想を53億円下回る(算出)。
2027年3月期 通期会社見通し(8/6修正)市場予想
売上高10,250億円9,638億円会社が+612億円(+6.4%)
税引前(経常)利益2,210億円2,263億円会社が△53億円(△2.4%)
当期利益1,410億円1,516億円会社が△106億円(△7.0%)

市場予想は株予報Pro掲載のIFISコンセンサス(2026年8月6日時点)。差の金額・率は算出値。株予報のレーティングは5段階で★★★★★。

この比較を読むときの注意

  • コンセンサスは平均値であって正解ではない。何人のアナリストがいつ時点で出した予想を集計したかで数字は動く。
  • 決算発表当日のコンセンサスには、今回の修正を反映していない改訂前の予想が混じっている可能性がある。改訂はこれから進む。
  • 株価は決算だけで動くわけではない。8月6日の△5.26%を決算への反応と断定はできない。銅価や為替、同日の相場全体の水準も同じ日に効いている。
  • 会社の当期利益見通し1,410億円は「親会社の所有者に帰属する」ベース。コンセンサスの当期利益と定義が完全に一致しているとは限らない。

参考までに、8月6日15時24分の株価4,121円と修正後の1株当たり当期利益155円80銭から計算した予想PERは26.4倍(算出)。6月末の1株当たり親会社所有者帰属持分675円53銭に対する実績PBRは6.1倍(算出)。年間配当予想20円での利回りは0.49%(算出)になる。素材メーカーの伝統的な評価尺度からは大きく離れた水準で、市場が払っているのは銅の値段ではなく、半導体材料の成長のほうだと読める。だからこそ、今回のように「増益の大半が銅と為替」という決算では、上方修正の額そのものが評価されにくい。

07 ── BALANCE SHEET

自己資本比率が48.3%から38.5%へ9.8ポイント低下。1,949億円の自社株買いが、決済前の状態で貸借対照表に載っている

6月末の資産合計は1兆6,701億円で、3月末から1,648億円の増加。増えたのは現金及び現金同等物で、663億円から2,190億円へ1,527億円積み上がった。負債合計も6,671億円から9,447億円へ2,776億円増えている。転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行によるものだ。

目を引くのは資本の側だ。資本合計は8,383億円から7,254億円へ1,128億円減り、親会社所有者帰属持分比率は48.3%から38.5%へ9.8ポイント下がった。減益でも損失でもない四半期に、自己資本比率がこれだけ落ちるのは普通ではない。

1,949億円の自己株式取得が、期末をまたいで「未決済」のまま計上されている

会社は普通株式57,300,112株、金額にして1,949億円の自己株式公開買付け(TOB)を実施した。ただし2026年6月30日時点では決済が完了しておらず、自己株式を購入する義務を「その他の金融負債」として負債に計上し、対応する金額を「その他の資本の構成要素(その他)」として資本から控除している。決済そのものは2026年7月9日に完了した。

つまり6月末の貸借対照表は、負債に1,949億円が乗り、資本から1,949億円が抜けた状態で写っている。自己資本比率9.8ポイントの低下は、その大半がこの処理で説明がつく。事業が傷んだわけではない。

財政状態3月末6月末
資産合計15,053億円16,701億円
現金及び現金同等物663億円2,190億円
棚卸資産3,451億円3,660億円
有利子負債3,243億円4,366億円
ネット有利子負債2,579億円2,176億円
親会社所有者帰属持分7,265億円6,424億円
親会社所有者帰属持分比率48.3%38.5%
キャッシュ・フロー1Q実績通期見通し
営業活動+132億円+1,350億円
投資活動+79億円△950億円
フリーCF+211億円+400億円
財務活動+1,309億円△240億円
投融資256億円1,350億円
減価償却費126億円
研究開発費53億円

決算説明資料P.15・P.22より。1Qの投資キャッシュ・フローがプラスなのは、カセロネス一部権益の譲渡代金が入ったため。ネット有利子負債が403億円減ったのは、自己株TOBに充てる予定のCB調達資金が6月末時点で手元に残っていたことによる一時的なもので、会社は2027年3月末のネット有利子負債を4,140億円と見込んでいる。

配当は年20円へ減配、ただし総還元性向は151%

2027年3月期の年間配当予想は中間10円・期末10円の合計20円。前期の31円(中間6円・期末25円)から11円の減配になる。配当性向は13%(会社開示)で、方針として掲げる「連結配当性向25%程度」を下回る。

これは業績の悪化によるものではない。会社は2026年5月11日に株主還元方針を変更しており、「大規模な自己株式取得を行う場合は総還元性向も考慮して別途検討する」としたうえで、今期は1,949億円の自己株取得を実施するため配当を下限の20円に置いた、と説明している。自己株取得を含めた総還元性向は約151%。当期利益を上回る額を株主に返す計算になる。減配という見出しと、還元の実額は逆を向いている。

08 ── SUMMARY

数字は強い。ただしこの四半期に効いたものの大半は、来期も同じように効くとは限らない

評価できる点

  • 営業利益814億円で前年の2.75倍、営業利益率15.5%→31.3%(算出)。
  • 半導体材料の増益59億円のうち54億円は数量差。市況ではなく販売量が作った。
  • 半導体用ターゲット+26%、チタン銅+42%、タンタル粉末+89%。AI投資が数量に届いている。
  • 通期営業利益を2,320億円へ上方修正。2023年度862億円からの4年で2.7倍(算出)。
  • フォーカス事業の営業利益見通し1,000億円。2023年度273億円から3.7倍(算出)。
  • InP基板を7〜10倍増産。投融資見通しも1,140→1,350億円へ引き上げ。

留意しておきたい点

  • 増益518億円のうち456億円(88.0%・算出)は一過性の売却益と市況要因。
  • 営業利益の70%は基礎材料(算出)。会社が掲げる構成比の目標とは逆を向いている。
  • 営業利益814億円のうち329億円(40.4%・算出)は持分法投資利益。自社工場の利益ではない。
  • 通期上方修正420億円のうち402億円(95.7%・算出)は為替・銅価。事業要因は差し引き18億円。
  • 下期にチリの鉱山減産▲93億円を織り込み済み。天候次第でさらに動く。
  • 自己資本比率は38.5%へ9.8ポイント低下。自己株TOB1,949億円の未決済計上による。
  • 会社の税引前利益見通しは市場予想を2.4%下回る(算出)。株価は当日△5.26%。

この決算を一言でまとめるなら、外部環境が最大限に味方した四半期だった。銅は史上最高値をつけ、為替は14円の円安。そこにチリの鉱山権益を売った190億円が重なり、営業利益は2.75倍になった。数字としては申し分ない。ただしこの3つは、いずれも会社の技術力とは関係のないところで決まっている。

そのうえで、この号で見ておきたい数字は3つある。半導体材料の数量差+54億円、フォーカス事業の営業利益構成比40%、そして通期上方修正に占める為替・銅価の割合95.7%。1つ目は、この会社の本命がちゃんと伸びていることを示す。2つ目は、その本命がまだ全体の4割にしか届いていないことを示す。3つ目は、残りの6割がどれだけ外の風で動くかを示す。

会社は2027年度にフォーカス事業で営業利益の67%以上を稼ぐと宣言している。今回の1Qは、その目標に対して逆向きの数字が出た四半期だった。InP基板7〜10倍、半導体用ターゲット1.3倍という増産が動き出すのは2026年度下期から2027年度にかけて。この会社を見るときの次の分岐点は、その能力増強が数量に、そして構成比に、いつ表れてくるかにある。

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