SAKURA CAFE ・ 決算分析
2027年3月期 第2四半期(中間期) 決算レビュー
証券コード 7013(東証プライム) / 対象期間 2026年4月〜9月 / 決算発表 2026年11月4日
中間期の営業利益は1,149億円、前年同期の1.7倍になった。会社はこれを「第2四半期(中間期)として過去最高益」と説明している。もっとも増益幅455億円のうち426億円は東京都江東区の不動産を売った益で、事業活動から出た利益ではない。では本業はどうか。不動産売却益を除いた営業利益も723億円と67億円増え、さらに為替や事業譲渡といった一過性までならした実力ベースでは521億円から707億円へ186億円伸びている。牽引役は民間向け航空エンジンだ。会社は通期見通しを8月に続いて再び引き上げ、年間配当を25円へ、格付もA+へ一段階上げた。この号では、過去最高益の中身を一過性と実力に切り分けて読む。
売上収益
営業利益
税引前中間利益
中間利益(親会社帰属)
01 ── PERFORMANCE
売上収益は7,793億円で前年同期比9.2%増。前期に複数の事業を譲渡した減収要因がありながら、民間向け航空エンジンや原子力といった成長事業の拡大がそれを上回った。営業利益は1,149億円、増益幅は455億円に達し、中間期として過去最高となった。
ただし営業利益の内訳を開くと、426億円は東京都江東区の不動産の一部を譲渡した益で、事業活動から出た利益ではない。前年同期にも38億円の不動産売却益があったため、売却益の「増えた分」は388億円。増益455億円の大半はここで説明がつく。
会社が併記している「不動産売却除く営業利益」は723億円。前年の656億円に対して67億円の増益で、売上収益に対する利益率も9.2%から9.3%へ上がった。売却益を差し引いても、本業の採算は前年を上回っている。
中間期の利益 ── 前年同期との比較
単位:億円 / 前年(2025年4〜9月)と当中間期(2026年4〜9月)
税引前中間利益は1,227億円で64.3%増。営業利益の増益幅455億円に対して増益幅が480億円と、さらに25億円ふくらんでいる。差は金融損益にある。持分法で会計処理している投資からの利益が増えたことが主因だ。親会社の所有者に帰属する中間利益は849億円、前年の559億円から290億円の増益になった。
基本的1株当たり中間利益は80円17銭(前年52円76銭)。IHIは2025年10月1日付で普通株式を1株につき7株に分割しており、前年同期の数字も分割後ベースに遡って調整されている。株価と並べるときは、分割後の株数で計算した数字かどうかを確かめたい。
02 ── BRIDGE
会社は営業利益455億円の増益を、要因別に次のように開示している。不動産売却益を含む「その他」が最大だが、本業の押し上げ(事業環境の変化・LCBの拡大・コスト構造の強化)も合わせて239億円あり、ここが毎期つづく力にあたる。一方で前期に売却した事業がなくなった反動(事業構造改革)や、研究費・人件費などの先行投資(販管費の変動)がマイナスに効いている。
| 営業利益の増減要因(全社) | 影響額 |
|---|---|
| 事業環境の変化(民間エンジン・原子力の需要拡大 ほか) | +113 |
| LCBの拡大 | +68 |
| コスト構造の強化 | +58 |
| 為替の変動 | +134 |
| 販管費の変動(研究費・人件費など先行投資) | ▲75 |
| 事業構造改革(前期の事業譲渡損益の反動 ▲113 を含む) | ▲140 |
| その他(不動産売却益の増加分 +388 を含む) | +298 |
| 合計 | +455 |
単位:億円。要因別の数値の合計と合計欄は、四捨五入の関係で一致しない場合がある。
不動産売却益・為替・事業譲渡といった一過性の要因をすべて除いた「実力ベースの営業利益」は、前年同期の521億円から707億円へ186億円増えた(会社開示)。利益率も9.1%から10.9%へ1.8ポイント改善している。見かけの営業利益1,149億円は不動産と円安で大きく見えているが、それらを外した芯の部分も、きちんと二桁で伸びているということだ。
この号で押さえておきたいのは、増益455億円が「一過性(不動産・為替・事業譲渡の差し引き)」と「実力(186億円)」に分かれていること。次の四半期以降に効いてくるのは後者で、その多くは次のセグメントで生まれている。
03 ── SEGMENT
報告セグメントは4つ。利益のほとんどを生んでいるのは航空・宇宙・防衛で、中間期の営業利益722億円は報告セグメント合計799億円の9割を占める。残りの3事業はいずれも小さく、明暗も分かれた。
| セグメント(中間期) | 売上収益 | 前年比 | 営業利益 | 前年同期 | 増減 |
|---|---|---|---|---|---|
| 航空・宇宙・防衛 | 3,348 | +22.3% | 722 | 547 | +175 |
| 資源・エネルギー・環境 | 1,787 | +12.3% | 7 | ▲1 | +8 |
| 産業システム・汎用機械 | 2,105 | +0.5% | 114 | 170 | ▲56 |
| 社会基盤 | 393 | ▲33.6% | ▲44 | ▲33 | ▲10 |
| 報告セグメント計 | 7,635 | +8.8% | 799 | 683 | +116 |
| その他(不動産売却益を含む) | 358 | ▲2.4% | 457 | 68 | +388 |
| 調整額(本社共通費用ほか) | ▲200 | ─ | ▲107 | ▲57 | ▲50 |
| 合計 | 7,793 | +9.2% | 1,149 | 694 | +455 |
単位:億円。不動産売却益426億円は「その他」に計上されているため、同区分の営業利益が前年の68億円から457億円へ大きく増えている。
売上収益3,348億円(+22.3%)、営業利益722億円(+175億円)、利益率は21.6%と全社で突出している。民間向け航空エンジンのアフターマーケット(スペアパーツ・整備)が堅調に伸び、新製エンジンの販売台数も増えた。円安(売上平均レートの差)も利益を押し上げている。詳しくは次章で分解する。
売上収益1,787億円(+12.3%)、営業利益は前年の1億円の赤字から7億円の黒字へ。カーボンソリューションの工事採算改善や原動機のLCB拡大が効いた。一方で受注高は前年の3,261億円から1,780億円へ半減しており、これは前年に大型案件があった反動(受注の章で後述)。
産業システム・汎用機械は売上こそ横ばい(2,105億円)だが、営業利益は170億円から114億円へ56億円減り、利益率も8.1%から5.4%へ下がった。社会基盤は減収のうえ赤字が44億円へ拡大している。規模は小さいが、通期で挽回を見込む区分であり、下期の採算が論点になる。
04 ── AEROSPACE
航空・宇宙・防衛の営業利益は前年同期比175億円増の722億円。増益の要因を会社は、PW1100G・GE機種の販売台数増、民間MRO(整備・部品修理)の工事増、売上平均レート差(円安)で約135億円、といった形で説明している。先行投資として研究費・人件費も増えているが、それを上回って需要が伸びた。
この事業の強さは、飛行機が飛ぶほど入ってくる交換部品と整備の収益にある。会社の参考資料によれば、民間エンジン事業の売上収益(円ベース)は中間期で前年同期比+28%、アフターマーケットの核であるスペアパーツ(ドルベース)も+20%で推移している。航空輸送需要が崩れない限り、ここが毎期の利益を下支えする構造だ。
航空の増益175億円のうち、売上平均レート差(円安)の寄与は約135億円と開示されている。売上平均レートは前年同期の1ドル146.57円から160.03円へ、約13円円安に振れた。会社は第3四半期以降の前提を1ドル150円に置いており、ここから円高に戻れば、その分は利益から差し引かれる。為替の影響はUSDで1円あたり下期営業利益10億円程度とされている(会社開示の為替感応度)。
05 ── ORDERS
中間期の受注高は7,787億円で、前年同期から1,146億円(12.8%)減った。売上は9.2%増えているのに受注が減るのは一見ちぐはぐだが、中身を見ると理由ははっきりしている。減少の大半は資源・エネルギー・環境で、受注高が3,261億円から1,780億円へ1,481億円減っている。これは前年に大型案件を獲得した反動であって、全社の需要が細ったわけではない。
むしろ主力の航空・宇宙・防衛は受注高が2,703億円から3,314億円へ610億円増えている。防衛予算の増加と民間航空機需要の拡大を背景に、将来の売上の種は積み上がっている。受注高の減少という見出しだけで全体を評価すると、事業ごとの温度差を読み違える。
| 受注高(中間期) | 当中間期 | 前年同期 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 航空・宇宙・防衛 | 3,314 | 2,703 | +610 |
| 産業システム・汎用機械 | 2,266 | 2,234 | +31 |
| 資源・エネルギー・環境 | 1,780 | 3,261 | ▲1,481 |
| 社会基盤 | 249 | 591 | ▲342 |
| 合計(その他・調整後) | 7,787 | 8,934 | ▲1,146 |
単位:億円。合計には報告セグメントのほか「その他」と調整額(本社共通費用ほか)を含む。
06 ── GUIDANCE
会社は通期(2027年3月期)の見通しを、8月公表時からさらに引き上げた。営業利益は2,500億円から2,700億円へ200億円増、売上収益は18,400億円から18,800億円へ、親会社帰属当期利益は1,720億円から1,850億円へ。営業利益2,700億円は前期(1,655億円)比1,044億円増で、達成すれば過去最高になる。
| 通期見通し(2027年3月期) | 今回 | 前回(8月) | 前期実績 |
|---|---|---|---|
| 売上収益 | 18,800 | 18,400 | 16,434 |
| 営業利益 | 2,700 | 2,500 | 1,655 |
| うち不動産売却除く営業利益 | 1,770 | 1,570 | 1,431 |
| うち不動産売却益 | 930 | 930 | 224 |
| 税引前利益 | 2,600 | 2,400 | 1,854 |
| 親会社帰属当期利益 | 1,850 | 1,720 | 1,609 |
| 1株当たり当期利益 | 173.88円 | 161.67円 | 151.88円 |
単位:億円(1株当たり利益を除く)。前提為替レートは3Q以降1ドル150円(8月時点は145円)。1株当たり利益は7分割後ベース。
上方修正の中身を見ると、不動産売却除く営業利益は1,570億円から1,770億円へ200億円引き上げられた一方、不動産売却益は930億円のまま据え置かれている。つまり今回の上積みは本業側だ。ただし通期営業利益2,700億円のうち930億円(約34%)は不動産売却益であり、繰り返し使える利益ではない。本業だけの数字は1,770億円である点は押さえておきたい。
中間期実績が通期見通しに占める割合(進捗率)
半期は1年の半分=50%が目安(点線)。これより低いと下期偏重を意味する
税引前利益の進捗が47.2%と高めなのは、中間期に持分法投資利益が乗ったため。売上・営業利益の進捗は4割台前半で、下期にかけて積み上げる計画だ。会社は第3四半期以降の前提為替を1ドル150円に置いており、ここが計画どおり進むかが答え合わせになる。
07 ── FINANCE
中間期末の総資産は2兆5,409億円で、前期末から1,124億円増えた。利益の積み上げと不動産売却により資本は7,486億円へ670億円増加し、親会社所有者帰属持分比率は26.9%から28.4%へ1.5ポイント上がった。格付会社JCRは10月28日、IHIの格付をAからA+へ1段階引き上げている。財務基盤は着実に厚くなっている。
| 財政状態 | 当中間期末 | 前期末 |
|---|---|---|
| 総資産 | 25,409 | 24,285 |
| 資本合計 | 7,486 | 6,815 |
| 自己資本比率 | 28.4% | 26.9% |
| D/Eレシオ | 0.75倍 | 0.72倍 |
| 格付(JCR) | A+ | A |
| キャッシュ・フロー | 当中間期 | 前年同期 |
|---|---|---|
| 営業CF | ▲650 | ▲571 |
| 投資CF | +89 | ▲229 |
| フリーCF | ▲560 | ▲801 |
| 現金及び現金同等物 | 1,370 | 1,550 |
単位:億円。現金及び現金同等物の前期末比較は2026年3月末→2026年9月末。
営業キャッシュ・フローは650億円の支出超過で、前年同期(571億円の支出超過)より流出が広がった。主因は事業の成長に伴う運転資本の増加で、棚卸資産が864億円増えている。利益とキャッシュの向きが逆になっており、積み上がった在庫をどの四半期で売上・入金に変えていくかが下期の論点になる。もっとも不動産売却による収入があったため、フリーキャッシュ・フローは前年より240億円改善している。
08 ── SHAREHOLDER RETURN
中間配当は1株11.5円を実施。期末配当の予想は、好調な業績を踏まえて8月公表の11.5円から13.5円へ2円引き上げた。結果、年間配当は25円となり、前期の20円から5円の増配になる(いずれも2025年10月の7分割を遡って調整した金額)。会社は1株当たり配当の持続的な成長を掲げており、配当は数年にわたって切り上がってきている。
1株当たり年間配当金の推移
単位:円/株 / 7分割を遡って調整した金額。2026年度(=2027年3月期)は今回見通し
09 ── SUMMARY
IHIは航空エンジンの会社になりつつある。中間期の営業利益722億円は航空・宇宙・防衛が稼ぎ、通期見通しの上積みも本業(不動産売却除く)側で起きた。民間エンジンのアフターマーケットという、飛行機が飛ぶほど入ってくる収益が全社を引っ張っている構図だ。
一方で、今期の見かけの利益を大きくしているのは不動産と円安でもある。江東区の土地は計画的に売り切る資源であって、毎期出るものではない。円安も同じで、会社の下期前提は1ドル150円、中間期の実績は160円だった。この差が縮めば利益は目減りする。
だから見るべきは、その2つを外した数字がどう動くか。会社が開示する実力ベースの営業利益は521億円から707億円へ186億円伸びた。過去最高益という見出しの下で、この芯が四半期ごとに積み上がっていくかどうかが、次の答え合わせになる。