EARNINGS REVIEW
2027年3月期 第1四半期 決算レビュー
証券コード 7013(東証プライム) / 対象期間 2026年4月〜6月 / 決算発表 2026年8月5日
営業利益732億円は前年同期の3.5倍。ただし、この中の400億円は東京都江東区の不動産を売った益だ。それを除いた本業の営業利益は331億円で、前年の208億円から123億円の増益になる。会社はこの331億円を「第1四半期として過去最高」と説明している。通期の営業利益見通しも2,500億円へ100億円引き上げた。引き上げの理由は1つの事業に絞られている ── 民間向け航空エンジンだ。それでも当日の株価は6.53%安で引けた。上方修正を出した日に6%超下げる決算を、市場は何を見て売ったのか。
売上収益
営業利益
税引前四半期利益
四半期利益(親会社帰属)
01 ── PERFORMANCE
売上収益は3,745億円で前年同期比10.9%増。営業利益は732億円、増益幅は523億円に達した。ただし営業利益の内訳を開くと、400億円は江東区豊洲地区の不動産の一部を譲渡した益で、事業活動から出た利益ではない。
会社が併記している「不動産売却除く営業利益」は331億円。前年の208億円に対して123億円の増益、率にして59.1%増(算出)になる。売上収益に対する利益率も6.2%から8.8%へ2.6ポイント上がった。売却益を差し引いても、本業の採算はきちんと改善している。
第1四半期の利益 ── 前年同期との比較
単位:億円 / 前年(2025年4〜6月)と当期(2026年4〜6月)
税引前四半期利益は819億円で305.3%増。営業利益の増益幅523億円に対して増益幅が617億円と、さらに94億円ふくらんでいる。差は金融損益にある。前年は6億円の損失だった金融損益が、当期は87億円の利益に転じた。理由は為替差損益の改善だ。売上平均レートは1ドル145.56円から160.52円へ約15円円安に振れており、この動きが外貨建ての資産・負債の評価にも効いた。
基本的1株当たり四半期利益は50円48銭(前年10円95銭)。IHIは2025年10月1日付で普通株式を1株につき7株に分割しており、前年同期の数字も分割後ベースに遡って調整されている。株価と並べるときは分割後の株数で計算した数字かどうかを確かめたい。
02 ── BRIDGE
会社は営業利益の増減を6つの要因に分けて開示している。前年の208億円から当期の732億円まで、何がどれだけ押し上げたのかを並べたのが次の図だ。
営業利益の増減要因(前年同期 → 当期)
単位:億円 / 決算説明資料の要因分解にもとづく
不動産の400億円を脇に置くと、残りは121億円。内訳はLCBの拡大が46億円、コスト構造の強化が36億円、事業環境の変化が32億円、為替の変動が32億円で、これを販管費の増加44億円が食っている。
コスト構造の強化36億円は、その大半が車両過給機事業から出ている。ターボチャージャーの販売価格の見直しとコスト削減が効き、産業システム・汎用機械セグメントだけで25億円分。長らく採算が課題だった事業が、今期は利益の出る側に回った。
販管費の44億円増は、成長事業に向けた研究開発費と人件費の積み増しだ。会社は2026年度から2028年度の3年間を「先行投資と財務基盤強化に集中的に取り組む期間」と位置づけており、この費用増は計画に沿ったものと説明している。通期の研究開発費は500億円(前期実績396億円)、設備投資は1,300億円(同976億円)を見込む。
03 ── SEGMENT
IHIの報告セグメントは4つ。売上収益で見ると航空・宇宙・防衛が1,547億円と全体の41%を占め、次いで産業システム・汎用機械が1,023億円で27%(いずれも算出)。この2つで7割近くになる。
セグメント別の売上収益
単位:億円 / 前年(2025年4〜6月)と当期(2026年4〜6月)
| セグメント | 売上収益 | 前年比 | 営業損益 | 前年 | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 資源・エネルギー・環境 | 888億円 | +25.2% | 28億円 | ▲33億円 | 3.2% |
| 社会基盤 | 204億円 | ▲30.0% | ▲18億円 | ▲17億円 | ▲8.8% |
| 産業システム・汎用機械 | 1,023億円 | ▲2.2% | 55億円 | 3億円 | 5.5% |
| 航空・宇宙・防衛 | 1,547億円 | +21.0% | 291億円 | 279億円 | 18.9% |
| その他 | 173億円 | +14.3% | 421億円 | 5億円 | ─ |
| 調整額(本社共通費用含む) | ▲91億円 | ─ | ▲47億円 | ▲27億円 | ─ |
| 合計 | 3,745億円 | +10.9% | 732億円 | 208億円 | 19.5% |
利益率は算出値。「その他」の営業損益421億円には不動産売却益400億円が含まれる。金額は単位未満切り捨てのため、内訳の合計と合計欄が一致しない場合がある。
前年に33億円の営業赤字だった資源・エネルギー・環境が、28億円の黒字に転じた。62億円の改善のうち42億円はLCBの拡大によるもので、国内のカーボンソリューション事業と原動機事業で既設設備向けの仕事が増えた。売上収益も709億円から888億円へ25.2%伸びている。
ただし、この事業は受注高が1,431億円から799億円へ632億円減った。前期に大型案件を取った反動で、これは会社も想定内としている。通期の受注見通しも3,600億円と、前期実績6,247億円から大幅に絞った数字を置いている。
橋梁やシールド機を手がける社会基盤は、売上収益204億円で30.0%の減収、営業損益は18億円の赤字。前年の17億円の赤字からほぼ横ばいで、4セグメントで唯一改善が見えない。受注高も224億円から161億円へ28.1%減った。会社の通期見通しでは営業利益70億円(利益率6.4%)を置いており、下期にかけて回収する計画になっている。
売上収益は1,023億円で2.2%の減収。前期に譲渡した事業が抜けた影響がある。それでも営業利益は3億円から55億円へ、金額にして52億円伸びた。押し上げたのはコスト構造の強化25億円、事業環境の変化11億円。車両過給機の値決めとコスト削減が主因だ。利益率0.3%が5.5%になった変化は、4セグメントの中でいちばん大きい。
04 ── AEROSPACE
IHIの中心にあるのが航空・宇宙・防衛だ。売上収益は1,279億円から1,547億円へ268億円増え、伸び率は21.0%。中でも民間エンジンが894億円から1,085億円へ拡大し、増収分のほとんどを1つの事業で作っている。
ところが営業利益は279億円から291億円へ、12億円しか増えていない。利益率も21.9%から18.9%へ3.0ポイント下がった。売上が2割伸びて利益が4%しか伸びない。この落差には理由がある。
| 航空・宇宙・防衛の内訳(第1四半期) | 受注高 前年 | 受注高 当期 | 売上収益 前年 | 売上収益 当期 |
|---|---|---|---|---|
| 民間エンジン | 899億円 | 1,086億円 | 894億円 | 1,085億円 |
| 防衛向け航空エンジン・装備品 | 300億円 | 172億円 | 289億円 | 366億円 |
| 宇宙 | 97億円 | 43億円 | 40億円 | 25億円 |
| その他・調整 | 74億円 | 79億円 | 56億円 | 71億円 |
| 合計 | 1,370億円 | 1,380億円 | 1,279億円 | 1,547億円 |
会社の要因分解によると、このセグメントの増益12億円は次のように積み上がっている。為替の変動が74億円のプラス、事業環境の変化が13億円のプラス。ここまでで87億円。そこからPW1100G-JMエンジンの追加検査プログラムにともなう為替影響が45億円のマイナス、販管費の変動が29億円のマイナスで引かれ、残ったのが12億円という構図だ。
つまり、円安がなければ数字は逆を向いていた可能性がある。それを確かめられる資料も会社は出している。売上平均レートを1ドル145円に揃えて調整した航空セグメントの営業利益は、前年第1四半期の240億円に対して当期は223億円。為替を外すと17億円の減益になる。
航空・宇宙・防衛の営業利益 ── 報告ベースと為替145円換算
単位:億円 / 為替145円換算はPW1100G-JM追加検査プログラムの為替影響も除外した調整後の値
不動産売却益400億円と円安74億円。この2つを外すと、数字の見え方はかなり変わる。会社は「不動産売却益を除いても第1四半期として過去最高益」と説明しており、これは事実だ。一方で主力の航空セグメントに限れば、為替を145円に揃えた調整後の利益は前年を17億円下回っている。決算全体は強い。ただし強さの出どころは一様ではない。
民間エンジン事業の売上収益は前年同期比27%増(追加検査プログラムの影響を除いたベース)。構成はスペアパーツ59%、新製エンジン33%、MRO 8%で、前年とほぼ同じ比率のまま全体が拡大した。ドル建てのスペアパーツ売上収益も前年同期を15%上回っている。会社は中東情勢による顕著な影響は確認されていないとして、通期の見通しを据え置いた。
通期では民間エンジンの売上収益を4,800億円と見込む。前期実績3,786億円からの伸びは1,000億円を超える。2022年度の2,014億円と比べれば2.4倍(算出)で、この事業がIHIの利益構造を作り替えつつあることが数字に出ている。
05 ── ORDERS
受注高3,607億円は前年同期を636億円下回った。率にして15.0%減。売上が2桁で伸びている一方でこの落ち込みをどう見るかだが、内訳を開くと減少はほぼ1カ所に集中している。
セグメント別の受注高
単位:億円 / 前年(2025年4〜6月)と当期(2026年4〜6月)
資源・エネルギー・環境が632億円減。全社の減少額636億円とほぼ同じで、他の3セグメントは横ばいか微増だ。前期の大型案件がなくなった反動であって、事業が縮んだわけではない。
受注残高は1兆7,436億円で、前期末から247億円減った。売上収益の年換算に対しておよそ1年分に近い水準が積み上がっている。航空・宇宙・防衛の受注残は6,424億円(前期末6,566億円)。
1つ注意しておきたいのは防衛だ。第1四半期の防衛向け受注は300億円から172億円へ減っているが、会社は「防衛は下期において航空エンジン、ロケットモーターの受注・売上が拡大する見通し」と説明しており、通期では2,800億円(前期実績2,644億円)を置いている。防衛の受注は年度の後半に寄る季節性があるため、第1四半期の数字だけで判断しないほうがいい。
06 ── GUIDANCE
会社は同時に通期見通しを引き上げた。営業利益は2,400億円から2,500億円へ、当期利益は1,650億円から1,720億円へ。売上収益と受注高もそれぞれ100億円の上積みとなる。
| 2027年3月期 通期 | 前期実績 | 前回見通し | 今回見通し | 修正額 |
|---|---|---|---|---|
| 受注高 | 19,547億円 | 17,600億円 | 17,700億円 | +100億円 |
| 売上収益 | 16,434億円 | 18,300億円 | 18,400億円 | +100億円 |
| 営業利益(不動産売却除く) | 1,431億円 | 1,500億円 | 1,570億円 | +70億円 |
| 不動産売却益 | 224億円 | 900億円 | 930億円 | +30億円 |
| 営業利益 | 1,655億円 | 2,400億円 | 2,500億円 | +100億円 |
| 税引前利益 | 1,854億円 | 2,300億円 | 2,400億円 | +100億円 |
| 当期利益(親会社帰属) | 1,609億円 | 1,650億円 | 1,720億円 | +70億円 |
| 1株当たり当期利益 | 151.88円 | 155.09円 | 161.67円 | +6.58円 |
| 営業利益率 | 10.1% | 13.1% | 13.6% | +0.5pt |
前提為替レートは1ドル145円で据え置き(前期実績151.09円)。為替が1円動いた場合の第2〜第4四半期の営業利益への影響額は15億円と開示されている。
修正の中身をセグメント別に見ると、100億円はすべて航空・宇宙・防衛から出ている。同セグメントの通期営業利益見通しは1,300億円から1,370億円へ70億円の上積み。売上収益も8,600億円から8,700億円へ。残りの30億円は不動産売却益の上積み分だ。他の3セグメントの見通しは1円も動いていない。
第1四半期が通期見通しのどこまで達したかを見ると、営業利益は29.3%、税引前利益は34.1%、当期利益は31.1%(いずれも算出)。1年の4分の1にあたる25%を、利益の3段すべてで上回っている。
通期見通しに対する第1四半期の進捗率
第1四半期実績 ÷ 通期見通し(算出)
不動産売却除く営業利益の進捗が21.1%と低めなのは、この会社の売上が下期に厚いためだ。前期の航空セグメントを見ても、四半期の営業利益は第3四半期に159億円まで落ち、第4四半期に417億円へ跳ねている。第1四半期の進捗率をそのまま4倍しても通期には届かない。
07 ── MARKET VIEW
第1四半期単体の市場予想については、株予報Proでもアナリストのコンセンサスは公開されていない。四半期ごとの予想を出さない銘柄は珍しくなく、IHIもそれにあたる。そのため今回は通期の並びで比べる。
株予報Proが8月4日時点で集計していた通期のコンセンサスは、売上収益1兆8,381億円、営業利益2,418億円、当期利益1,739億円。これに対して会社が同5日に出した見通しは売上収益1兆8,400億円、営業利益2,500億円、当期利益1,720億円だった。
2027年3月期 通期 ── 会社見通しと市場予想
単位:億円 / 市場予想は株予報Pro掲載のIFISコンセンサス(2026年8月4日時点)
営業利益は会社のほうが82億円上、当期利益は市場のほうが19億円上。差はどちらも数%以内で、大きくは割れていない。ただしこのコンセンサスは8月4日時点、つまり今回の上方修正を織り込む前の数字であることには注意がいる。会社が営業利益を2,500億円へ引き上げたことで、市場予想はこれから上方に修正されていく可能性が高い。
決算発表当日、8月5日の終値は2,691円50銭。前日終値2,879円50銭から188円安、率にして6.53%の下落だった。この日の高値は2,965円、安値は2,658円、出来高は4,901万株。上方修正を出した日に6%超売られたことになる。株探は同日14時39分の記事で、上方修正が市場の期待に届かず後場に一段安となったと伝えている。
売られた理由を数字から推し量るなら、営業利益の上方修正100億円のうち30億円が不動産売却益の上積みであること、そして残る70億円も航空セグメント1本から出ていることだろう。会社の通期営業利益2,500億円は市場予想2,418億円を82億円上回るが、当期利益では会社1,720億円に対し市場1,739億円と逆転する。上げ幅の中身を見ると、驚くほどの上振れではない。
終値ベースのバリュエーションは、株予報Pro掲載の予想PERが17.3倍。これは修正前の1株当たり利益155円09銭にもとづく数字で、今回の161円67銭で計算し直すと16.7倍になる(算出)。実績PBRは4.37倍、年間配当23円での予想配当利回りは0.85%、時価総額はおよそ2兆9,142億円。アナリスト12人の目標株価の平均は3,748円で、終値からの乖離は39.3%(算出)。レーティングは5段階で4.25と強気側にある(強気7人・やや強気1人・中立4人・弱気0人)。
08 ── BALANCE SHEET
総資産は2兆4,612億円で前期末から326億円増加。資本は7,238億円で423億円増え、この中に第1四半期の利益535億円が含まれる。親会社所有者帰属持分比率は26.9%から28.3%へ1.4ポイント改善した。D/Eレシオは0.72倍から0.67倍へ下がっている。
| 財政状態 | 前期末 | 1Q末 |
|---|---|---|
| 総資産 | 24,285億円 | 24,612億円 |
| 棚卸資産 | 5,042億円 | 5,544億円 |
| 現金及び現金同等物 | 1,550億円 | 1,170億円 |
| 有利子負債 | 4,898億円 | 4,871億円 |
| 資本合計 | 6,815億円 | 7,238億円 |
| 親会社所有者帰属持分比率 | 26.9% | 28.3% |
| キャッシュ・フロー | 前年1Q | 当1Q |
|---|---|---|
| 営業キャッシュ・フロー | ▲53億円 | ▲432億円 |
| 投資キャッシュ・フロー | ▲156億円 | +236億円 |
| うち設備投資向け | ▲254億円 | ▲180億円 |
| フリーキャッシュ・フロー | ▲209億円 | ▲196億円 |
| 減価償却費 | 181億円 | 206億円 |
| EBITDA | 389億円 | 938億円 |
気をつけたいのは営業キャッシュ・フローだ。432億円の流出で、前年の53億円の流出から379億円悪化している。理由は棚卸資産の増加と法人所得税の支払い。棚卸資産は前期末から502億円積み上がっており、これは民間エンジンの増産に備えた在庫の引き上げによるものと会社は説明している。前期の前受金増加の反動も効いた。
投資キャッシュ・フローが236億円の収入超過になっているのは不動産譲渡の代金が入ったため。結果としてフリーキャッシュ・フローは196億円の流出で、前年の209億円流出より13億円改善した。会社は通期で営業キャッシュ・フロー1,000億円を見込んでおり、年度末に向けて運転資本を改善するとしている。
2027年3月期の配当予想は中間11円50銭・期末11円50銭の年間23円で、前回予想から変更なし。前期は株式分割の影響を反映すると年間20円だったので、3円の増配になる。第1四半期末の配当はない。
IHIは2026年5月8日に「中長期の方向性」を公表し、2026年度から2028年度の3年間をフェーズ1と位置づけている。この期間の投資総額は6,500億円(研究開発費1,600億円を含む)。原資は3年間の営業キャッシュ・フロー3,500億円に研究開発費を足し戻した調整後営業CF 5,100億円と、豊洲地区を中心とした不動産売却収入1,000億円。今回の400億円の売却益は、その資金計画の一部が形になったものにあたる。
09 ── SUMMARY
IHIは今、航空エンジンの会社になろうとしている。通期見通しで航空・宇宙・防衛の営業利益1,370億円は全社2,500億円の55%(算出)を占め、上方修正した100億円もすべてこのセグメントから出た。残る3事業は現状維持のまま据え置かれている。
その一方で、今期の利益を押し上げているのは不動産と円安でもある。豊洲の土地は3年かけて売り切る計画資源であって、繰り返し使えるものではない。円安も同じで、会社が置いた前提は1ドル145円、第1四半期の実績は160.52円だった。第2四半期以降にこの差が縮めば、四半期あたり15億円ずつ利益は削られていく計算になる。
だから見るべきは、その2つを外した数字が四半期ごとにどう動くかだ。為替145円換算の航空セグメント営業利益は、2025年度の四半期平均265億円に対して2026年度は325億円を見込む。この線に乗ってくるかどうかが、次の四半期の答え合わせになる。
上方修正の日に6.53%下げた市場の反応は、そこを見ているのだと思う。