号外EXTRA EDITION
エヌビディアCEOの「頼んだよ」と、前受金で建つ5,000億円の工場
東証プライム 4062 / 9月24日 終値 22,405円(+14.6%)/ 文藝春秋の社長インタビューと開示資料に基づく号外レポート
連休中の9月23日、文藝春秋がイビデンの河島浩二社長のインタビューを公開しました。7月に来日したエヌビディアのジェンスン・ファンCEOが、過密な日程のなかで河島社長と1時間近く向き合い、「僕たちはとにかくイビデンに頼るしかない」と伝えていたという内容です。会談は当時表に出ていませんでした。連休明けの今日24日、株価は2,850円高の22,405円で引けています。1年前の終値4,411円の約5.1倍です(算出)。岐阜県大垣市の基板メーカーに、なぜ世界最大の半導体企業が頭を下げるのか。インタビューの中身、決算の数字、前受金で工場を建てる仕組み、そして7月に半値まで売られた株価。4つに分けて読みます。
株価(1年前の終値との比較)
今期の営業利益予想(8月4日に上方修正)
2026〜28年度の電子事業投資
01 ── THE INTERVIEW
インタビューによると、ファン氏と河島社長が間近でじっくり話したのは、7月の来日が初めてでした。エヌビディアはいま、イビデンに現状の何倍もの生産能力を求めています。普通なら「できるわけがない」と返す規模です。河島社長はファン氏を、できない理由ではなく「どうやったらできるか」を一緒に考える人だったと振り返っています。
僕たちはとにかくイビデンに頼るしかないのだから、しっかりやってほしい。頼んだよ
ファン氏が河島社長に伝えた言葉(河島社長の証言。文藝春秋 電子版、2026年9月23日)
なぜイビデンなのか。聞き手の杉本りうこ氏は、AI向けの先端GPUの8割以上にイビデンのパッケージが使われていると指摘しています。関係は30年近く前にさかのぼります。当時、半導体パッケージはセラミックが主流でした。イビデンがインテルにプラスチック製を提案し、1996年に採用されたことで業界全体がプラスチックへ移り、その流れのなかで1993年設立のエヌビディアとの取引も始まりました。
面白いのはここからです。インテルが半導体業界を席巻していた時期、社内には「数量の出ないGPUより、インテル向けに生産能力を回したほうがいい」という議論がありました。河島社長自身も否定的だったと認めています。それでもエヌビディアとの取引が細々と続いたのは、現取締役の加藤久始氏が「重要なお客さんだ」と言い張り、GPUの担当を続けたからでした。
ゲーム用の画像チップだったGPUが、AIの心臓部に変わった。そのとき「エヌビディアを支えてきたのはイビデンだけだった」という状態ができあがっていた、と河島社長は話しています。数量の小さい顧客を切らなかった判断が、時間をかけて会社の稼ぎ頭を決めたことになります。
インタビューの全文(文藝春秋PLUS掲載・約6,000字)の題は「エヌビディア、インテル、TSMCが求愛する日本企業」です。6月26日には、TSMC・イビデン・台湾のInnoluxが、次世代パッケージ向けのガラス基板を共同開発する計画も報じられました(マイナビニュース)。量産は2028年後半以降との見方で、まだ先の話です。
02 ── THE NUMBERS
話の大きさは決算にそのまま出ています。2026年3月期は売上高4,162.0億円(+12.7%)、営業利益620.3億円(+30.3%)。8月4日にはこれを大きく超える今期計画に引き上げました。売上高5,500億円(+32.1%)、営業利益1,270億円(+104.7%)です。
営業利益の推移(億円)
2027年3月期は8月4日に修正した会社予想
エンジンは電子事業、つまりパッケージ基板です。4〜6月期の電子事業は売上高775.2億円(+37.7%)、営業利益213.8億円(+52.4%)。短信は、生成AI用サーバー向けと汎用サーバー向けの高機能基板の受注が堅調で、昨年度に量産を始めた大野事業場の生産が安定してきたと書いています。会社全体の営業利益268.8億円のうち、約8割を電子事業が稼いだ計算です(算出)。
| 連結(億円) | 2026年3月期 | 前期比 | 2027年3月期 予想 | 前期比 | 1Q実績の進捗率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 4,162.0 | +12.7% | 5,500.0 | +32.1% | 22.4% |
| 営業利益 | 620.3 | +30.3% | 1,270.0 | +104.7% | 21.2% |
| 経常利益 | 608.2 | +27.0% | 1,270.0 | +108.8% | 21.6% |
| 純利益 | 637.1 | +89.0% | 840.0 | +31.8% | 21.3% |
進捗率は2割強で、1年の4分の1(25%)をやや下回ります(算出)。ただし上期の予想は営業利益545億円なので、会社は下期に利益が厚くなる形を描いています。前期の純利益が+89.0%と突出しているのは、投資有価証券の売却益608億円が特別利益に入ったためです。本業の伸びは営業利益で見たほうが正確です。
03 ── THE MONEY
2月3日、イビデンは2026〜28年度の3年間で電子事業に約5,000億円を投じる計画を発表しました。前期の売上高を上回る金額です。内訳は2つの工場で、どちらも2027年度から順次稼働します。
| 事業場 | 投資額 | つくるもの | 前払いする顧客(報道) |
|---|---|---|---|
| 河間事業場(岐阜県大垣市) | 約2,200億円 | AI ASIC向け高機能基板 | インテル |
| 大野事業場(岐阜県大野町) | 約2,800億円 | AI GPU向け高機能基板 | エヌビディア |
変わっているのは資金の出どころです。東洋経済の取材にイビデンのIR担当者は、投資額に相当する金額を顧客からの前払いで調達すると答えています。同誌は2,200億円をインテル、2,800億円をエヌビディアから受け取る構図と報じ、文藝春秋も「2800億円の前払金」と見出しに掲げました。顧客名と金額の組み合わせは会社の開示ではなく報道によるものです。
決算書にもその跡が出ています。4〜6月の3か月で、前受金は735.8億円増えました。同じ期間に現金及び預金は776.8億円増え、営業キャッシュフローは958.9億円の入金超です。現金の増加分のほとんどを、顧客からの前払いで説明できます(算出)。
東洋経済は、イビデンの過去の投資の失敗も書いています。2007年に建てた大垣中央事業場は、リーマン・ショックで稼働が低迷しました。2021年に2工場の同時建設を発表したときは、インテルの業績悪化で1工場がほとんど未稼働のまま残りました。 前受金の仕組みは、この失敗への答えとも読めます。顧客が先にお金を出すので、需要が細っても建設費を自社で丸抱えすることはない。その一方で、特定の顧客向けの専用ラインになり、顧客2社の事情に業績が大きく左右される体質は強まります(読み方は本誌の見解)。
04 ── THE STOCK
文春の見出しは「過去1年で株価7倍超」です。本誌が終値で取り直すと、1年前の2025年9月24日の終値4,411円から、7月1日につけた上場来高値27,480円(取引時間中)までが約6.2倍でした。起点を2025年8月末の3,621円に取れば7.6倍になるので、見出しは記事の執筆時点から1年をさかのぼった数字とみられます(推測)。
イビデンの株価(日次終値、円)
2025年9月24日〜2026年9月24日。2026年1月の株式分割は調整済み、10月の分割は未反映
上げ方も下げ方も急です。終値の最高値は6月22日の26,425円。そこから7月29日の13,470円まで、1か月あまりで49%下がりました(算出)。ファン氏が河島社長に「頼んだよ」と伝えた7月の来日週も、株価は下げの途中でした。会談が表に出ていなかったからです。
| 日付 | 終値 | 前日比 | その日の出来事 |
|---|---|---|---|
| 2025年9月24日 | 4,411円 | ── | 1年前の起点 |
| 2026年6月22日 | 26,425円 | ── | 終値ベースの最高値 |
| 7月1日 | 25,785円 | ── | 取引時間中に上場来高値27,480円 |
| 7月15〜16日 | 17,405円 | ── | ファン氏来日、河島社長と会談(当時は非公表)。表は16日終値 |
| 7月29日 | 13,470円 | ── | 終値ベースの安値。高値から−49% |
| 7月31日 | 16,650円 | +3,000円 | データセンター関連として買われストップ高(株探) |
| 8月5日 | 20,330円 | +4,000円 | 前日の上方修正と株式分割の発表でストップ高 |
| 9月18日 | 19,555円 | ── | 連休前の最終取引日 |
| 9月24日 | 22,405円 | +2,850円 | インタビュー公開後の連休明け。+14.6% |
今日の上げには、インタビューのほかにも材料が重なっています。Investing.comは、5連休分の材料をまとめて織り込んだハイテク株全体の上昇と、迫る株式分割への期待を挙げました。今日の終値で計算した時価総額は約6兆3,170億円(発行済株式数ベース・算出)。PERは約75倍です。
基準日は9月30日、効力発生日は10月1日です。分割後の株を受け取るには、9月28日(月)の取引終了時点で株を持っている必要があります(権利付最終日・算出)。29日以降は、株価がおよそ半分の水準で表示されます。値下がりではありません。配当予想は分割後換算で年17.50円(中間7.50円・期末10.00円)で、8月に期末分を7.50円から10.00円へ引き上げています。
05 ── SUMMARY
数量の小さいGPUから手を引いて、インテルに生産を寄せる。当時の社内ではそれが合理的な判断で、河島社長も賛成側でした。1人の担当者が取引を細く残したことで、AIの時代に「エヌビディアを支えてきたのはイビデンだけ」という立場ができました。そしていま、その顧客が2,800億円を先に払って工場を建てさせています。 需要の強さは疑いようがありません。問われているのは値段のほうです。7月には、需要の話が何も変わらないまま株価が半分になりました。インタビューが話題になった今日の+14.6%も、同じ振れ幅の上側にあります。見るべきは2027年度に大野と河間のラインが埋まるかどうかで、それが分かるのは来年以降の決算です。