特別編POLICY BRIEF
骨太の方針2026を投資家の目で読む ── 17分野・62品目の設計図
2026年7月21日 閣議決定「経済財政運営と改革の基本方針2026 ── 『責任ある積極財政』元年」/内閣府・内閣官房公表資料(本文38ページ、概要、政策ファイル)
今年の骨太は、読み方を変えたほうがいい。過去の骨太が「政府がやりたいことの一覧」だったのに対し、2026年版は 予算の作り方そのものを書き換える文書になっている。要求上限を外した投資枠を作り、補正予算頼みをやめ、 基金の3年ルールに例外を認める。ここが変わると、企業から見た国の発注は「毎年ゼロから交渉するもの」から「複数年で読めるもの」に性質が変わる。 そのうえで17の戦略分野と62の主要な製品・技術を名指しし、2040年度までの累計で 370兆円超の官民投資を想定した。国策に売りなし、という言葉が久しぶりに実務的な意味を持つ。 ただし、金額が確定するのは12月末の予算案からで、今はまだ地図しかない。
62品目への官民投資(累計・想定)
国内投資額の官民目標
目指す名目GDP
01 ── WHAT CHANGED
17分野のリストは、去年の成長戦略や経済安全保障の議論を追っていた人には既視感があるはずです。半導体、量子、宇宙、防衛、バイオ。目新しさで言えば、フュージョンエネルギーと港湾ロジスティクスが独立した分野として立ったことくらい。だから分野名だけを眺めて「またか」と閉じてしまうと、今年の骨太で一番効く部分を読み飛ばします。
変わったのは第3章です。財政運営の目標、予算の要求ルール、補正予算の位置づけ、基金の期限。企業の受注環境を左右する仕組みが、まとめて書き換えられました。
| 論点 | これまで | 骨太2026 |
|---|---|---|
| 財政の中核目標 | PB(基礎的財政収支)の黒字化 | 国・地方の総債務残高対GDP比の安定的低下。PBは複数年で管理する確認指標へ |
| 要求のルール | シーリング(要求上限)で前年度比を縛る | 投資枠についてはシーリングを設けず、事項要求も可 |
| 予算の年限 | 単年度主義。基金の予算措置は原則3年以内 | 複数年度の計画を基本とし、3年ルールの不適用を含めて基金ルールを抜本見直し |
| 補正予算 | 大規模経済対策の補正で毎年度上乗せ | 補正は緊要性の高いものに限定。恒常的な施策は当初予算で措置 |
| 歳出の考え方 | デフレ前提の一律抑制型 | 物価・賃金上昇を反映し、名目の経済規模の拡大にふさわしい規模へ |
| 経済安保分野の財源 | その都度の予算措置 | 特別会計で別枠管理し、償還財源の裏付けのある「つなぎ国債」で前倒し調達 |
受注する側の立場で読み替えると分かりやすい。単年度で切れる補助金は、設備投資の判断材料にはなりません。工場を建てるかどうかを、来年も予算が付く保証のない制度で決める会社はない。複数年度の計画に基づく措置が基本になり、基金の3年ルールに例外が認められ、要求上限が外れる。これは企業側の投資判断が変わりうる制度変更です。骨太が繰り返し「予見可能性」という言葉を使っているのは、そこを狙っているからです。
本文の脚注117に、こう書かれています。つなぎ国債については債務残高対GDP比やPB等の指標において、経費及び財源の金額を除いて別枠で管理する。中核指標に含めない前提で発行する国債、ということです。財政の持続可能性を測る物差しの外側に置かれる支出がどれだけ膨らむかは、来年以降の金利と為替を考えるうえで見ておく必要があります。市場が納得するかどうかは、まだ答えが出ていません。
02 ── THE NUMBERS
公表資料に出てくる数字のうち、投資家が押さえるべきものは多くありません。2040年度に国内投資250兆円、62品目への官民投資が累計370兆円超、名目GDPが1,100兆円に近づく。この3つです。成長率は実質1%超・名目3%超をできるだけ早期に定着させ、さらに引き上げる、と書かれています。
その手前に、日本の潜在成長率が置かれています。2025年で0.4%。米国の2.3%はもちろん、ドイツの0.6%にも届いていません。政府はこの低迷を「長年の未来への投資不足」と言い切り、単なる生産能力の不足ではなく科学技術力・産業競争力・人材力という質的基盤の弱体化を伴っている、と診断しました。
潜在成長率の国際比較(2025年)
単位:% / 日本=0.4%はG5で最下位。政府はこの数字を出発点に置いた
もう1つ、意外に語られない数字があります。研究開発投資です。第7期「科学技術・イノベーション基本計画」の目標として、2026年度から2030年度の5年間で官民180兆円が掲げられました。直前の実績は2021年度から2024年度の4年で86.3兆円(2025年度は計測中のため4年分の合計)。年あたりに直すと、21.6兆円から36.0兆円へ、およそ1.7倍のペースになります。
官民の研究開発投資 ── 年あたりのペース
単位:兆円/年 / 実績86.3兆円÷4年、目標180兆円÷5年として本レポートが算出
GDPが1,100兆円に迫るという見通しは、内閣府の試算(2026年6月24日「日本成長戦略の下での中長期的な経済・財政の姿に関する試算」)に基づいています。その脚注112に前提が書かれていて、財源を確保して別枠管理する予算のほかに、毎年度実質10兆円を追加的に支出した場合を想定、とあります。予算の上限という意味ではなく一つの試算として、と断り書きは付いていますが、絵に描いた成長シナリオがどのくらいの財政支出とセットなのかは、この一行に出ています。
03 ── THE MAP
ここが本文で最も具体的な部分です。本文8ページの脚注6に17分野、9ページの脚注9に62品目が列挙されています。脚注は読み飛ばされがちですが、投資テーマとして使えるのは本文ではなく脚注のほうです。
以下は、脚注6の分野の並びと脚注9の品目の並びが対応していることから、本レポートが分野ごとに割り当てて整理したものです。政府が分野別の内訳として公表した表ではない点に注意してください。
フィジカルAI(特にAIロボット)、フィジカル・インテリジェント・システムの中核を担う半導体、バーティカルAI(領域特化型AI)、データプラットフォーム
関連する上場企業の例東京エレクトロン8035、アドバンテスト6857、ディスコ6146、レーザーテック6920、SCREENホールディングス7735、KOKUSAI ELECTRIC6525、ソシオネクスト6526、ルネサスエレクトロニクス6723、キオクシアホールディングス285A、ファナック6954、安川電機6506、キーエンス6861、ハーモニック・ドライブ・システムズ6324
セキュリティの確保された政府・地方公共団体のAX/DX基盤、AI時代に対応した先進的サイバーセキュリティ製品・サービス、クラウド・データセンター、蓄電池、クラウドネイティブに最適化された医療DX基盤、自動運転技術
関連する上場企業の例富士通6702、NEC6701、日立製作所6501、野村総合研究所4307、トレンドマイクロ4704、デジタルアーツ2326、FFRIセキュリティ3692、ラック3857、サイバーセキュリティクラウド4493、さくらインターネット3778、インターネットイニシアティブ3774、GSユアサ6674、パナソニックホールディングス6752、エムスリー2413、メドレー4480、デンソー6902、アイシン7259
オール光ネットワーク(APN)、海底ケーブル、次世代ワイヤレス(非地上系ネットワーク、5G/Beyond 5G(6G)等)
関連する上場企業の例日本電信電話9432、KDDI9433、ソフトバンク9434、古河電気工業5801、住友電気工業5802、フジクラ5803、NEC6701、京セラ6971、スカパーJSATホールディングス9412
量子コンピューティング、量子通信・ネットワーク、量子センシング
関連する上場企業の例富士通6702、NEC6701、日立製作所6501、三菱電機6503、浜松ホトニクス6965、フィックスターズ3687、日本電信電話9432
小型無人航空機、艦艇、デュアルユース技術
関連する上場企業の例三菱重工業7011、川崎重工業7012、IHI7013、三菱電機6503、NEC6701、日本製鋼所5631、東京計器7721、日本アビオニクス6946、石川製作所6208、豊和工業6203、ACSL6232、テラドローン278A
民間航空機(次期単通路機・次世代航空機)、無人航空機、空飛ぶクルマ、ロケット・射場、人工衛星・サービス、月面探査・低軌道技術
関連する上場企業の例三菱重工業7011、IHI7013、川崎重工業7012、SUBARU7270、カナデビア7004、ispace9348、QPS研究所5595、アストロスケールホールディングス186A、スカパーJSATホールディングス9412、三菱電機6503
海洋無人機(海洋ドローン)、海洋状況把握(MDA)、革新的海底開発技術・システム
関連する上場企業の例三井海洋開発6269、古野電気6814、川崎重工業7012、IHI7013、日本郵船9101、三菱重工業7011
次世代船舶、船舶修繕、LNG運搬船
関連する上場企業の例三菱重工業7011、川崎重工業7012、名村造船所7014、三井E&S7003、カナデビア7004、日本郵船9101、商船三井9104、川崎汽船9107
永久磁石、グリーン鉄、革新的金属部素材、低炭素金属部素材(鉄鋼以外)、一次原料および二次原料からの製錬・分離精製、解体選別技術、AI等を活用した複合新素材
関連する上場企業の例信越化学工業4063、SUMCO3436、住友金属鉱山5713、三菱マテリアル5711、DOWAホールディングス5714、JX金属5016、日本製鉄5401、JFEホールディングス5411、神戸製鋼所5406、大同特殊鋼5471、TDK6762、東邦亜鉛5707、大平洋金属5541、レゾナック・ホールディングス4004、東京応化工業4186
バイオものづくり、バイオ医薬品・再生医療等製品等
関連する上場企業の例島津製作所7701、味の素2802、カネカ4118、キリンホールディングス2503、富士フイルムホールディングス4901、AGC5201、ユーグレナ2931
ファーストインクラス製品・ベストインクラス製品(医薬品、再生医療等製品)、感染症対応製品、革新的デバイス(AI、ロボティクス等)を活用した先端医療、ライフログデータ等を活用したヘルスケア関連サービス
関連する上場企業の例武田薬品工業4502、第一三共4568、アステラス製薬4503、中外製薬4519、塩野義製薬4507、住友ファーマ4506、ペプチドリーム4587、テルモ4543、オリンパス7733、サンバイオ4592、ヘリオス4593、エムスリー2413
次世代型太陽電池(ペロブスカイト太陽電池等)、水素等、次世代型地熱、洋上風力、次世代革新炉、GXケミカル
関連する上場企業の例積水化学工業4204、カネカ4118、INPEX1605、出光興産5019、ENEOSホールディングス5020、岩谷産業8088、千代田化工建設6366、日揮ホールディングス1963、木村化工機6378、富士電機6504、三菱重工業7011、IHI7013、日本製鋼所5631、五洋建設1893、東亜建設工業1885、関西電力9503、九州電力9508、東北電力9506、三菱商事8058
フュージョンエネルギー(本文はトカマク型に加え、ヘリカル型・レーザー型の技術力とスタートアップの革新的技術を取り込むと明記)
関連する上場企業の例三菱重工業7011、助川電気工業7711、浜松ホトニクス6965、古河電気工業5801、住友電気工業5802、東洋炭素5310、IHI7013
防災技術(防災庁の設置、国土強靱化実施中期計画、防災産業の育成・海外展開が本文に併記)
関連する上場企業の例大成建設1801、大林組1802、清水建設1803、鹿島建設1812、インフロニア・ホールディングス5076、ショーボンドホールディングス1414、日特建設1929、ライト工業1926、応用地質9755、帝国繊維3302、小松製作所6301、日立建機6305
港湾荷役機械、サイバーポート(港湾物流DX)、次世代型倉庫
関連する上場企業の例三井E&S7003、三菱ロジスネクスト7105、ダイフク6383、上組9364、三菱倉庫9301、三井倉庫ホールディングス9302、住友倉庫9303、日本トランスシティ9310
植物工場、陸上養殖、食品機械、新規食品
関連する上場企業の例ニッスイ1332、マルハニチロ1333、極洋1301、日本ハム2282、不二製油グループ本社2607、キユーピー2809、クボタ6326、井関農機6310、レオン自動機6272
ゲーム、アニメ、マンガ、音楽、実写
関連する上場企業の例ソニーグループ6758、任天堂7974、バンダイナムコホールディングス7832、カプコン9697、スクウェア・エニックス・ホールディングス9684、コーエーテクモホールディングス3635、東映アニメーション4816、IGポート3791、KADOKAWA9468、東宝9602、東映9605、サンリオ8136、エイベックス7860
本文は「62の主要な製品・技術等」と書いていますが、脚注9に並んだ品目を読点で機械的に区切ると64件になります。ロードマップ上でいくつかを1件として扱っているためとみられます。上の分野別の内訳もこの64件を割り当てたもので、政府が発表した内訳ではありません。品目は追加を含めて見直していく、と本文にも明記されています。
04 ── CROSSCUT
分野リストの陰に隠れがちですが、本文10ページの脚注10に挙がった8つの横断課題のほうが、対象になる会社の数は多くなります。中堅・中小企業の省力化投資、リ・スキリング、金融機能の強化。ここは17分野に入っていない会社にも金が回る経路です。
| 横断課題 | 具体策として名前が出ているもの |
|---|---|
| 新技術立国・競争力強化 | 『「強く豊かな日本」投資枠』の創設。経済安保上重要な分野は特別会計で別枠管理し、つなぎ国債で調達。特定分野で高い研究力を持つ大学を認定して中長期支援する新制度。リードインベスターの育成とスタートアップからの調達加速 |
| スタートアップ | 「スタートアップ総力創出パッケージ」の実行。SBIR制度の抜本強化(研究開発段階から実環境での試験導入・運用まで、売上計上が可能な委託契約で一貫支援)。防衛省版SBIRの活用。政府調達のスタートアップ比率3%目標 |
| 金融を通じた潜在力の解放 | 「成長投資を促進するための金融戦略」。官民戦略投資連携フォーラム(仮称)の設置、大口信用供与等規制の特例明確化、小口・低格付社債の規制見直し、地域未来金融アクションプラン(仮称)。改訂コーポレートガバナンス・コードと「成長投資ガイダンス」の普及 |
| 人材育成 | 国立大学法人運営費交付金・科研費の大幅拡充。大学の理系分野への学部再編支援。2040年に理工農・デジタル・保健系の定員を5割へ |
| 労働市場改革 | 労働時間法制の政策対応を夏以降の労働政策審議会で議論。裁量労働制・変形労働時間制、連続勤務規制、勤務間インターバル、つながらない権利、副業・兼業。17分野を支えるリ・スキリングをスキルの標準化から一気通貫で |
| 家事等の負担軽減 | 家事支援サービスの国家資格(技能検定)を創設。家事支援・ベビーシッター利用に対する税制措置を含む支援策を検討 |
| 賃上げ環境整備 | 中堅・中小企業の「稼ぐ力」強化戦略。補助金の審査で足元の賃上げ状況も評価。12業種「省力化投資促進プラン」の充実。官公需の価格転嫁を2027年度末までに100%実施。中小M&A支援者(個人)の資格制度を検討 |
| サイバーセキュリティ | 能動的サイバー防御の体制整備。重要インフラ(情報通信、金融、電力、ガス等)の統一基準を策定・実施 |
投資テーマとして拾いやすいのは、省力化投資と価格転嫁の2つです。官公需の予定価格に実勢価格を反映させ、低入札価格調査制度または最低制限価格制度の導入・適用を2027年度末までに100%にする。この一文は、公共工事や自治体案件を抱える中堅企業の粗利率に直接触れます。派手さはありませんが、決算に出るタイプの変更です。
横断課題から拾える上場企業の例 省力化・自動化 ── ダイフク6383、THK6481、オムロン6645、不二越6474、アマダ6113/リ・スキリングと人材 ── リクルートホールディングス6098、パーソルホールディングス2181、ディップ2379/金融 ── 野村ホールディングス8604、大和証券グループ本社8601、日本取引所グループ8697、SBIホールディングス8473、三菱UFJフィナンシャル・グループ8306、ふくおかフィナンシャルグループ8354
05 ── OUTSIDE THE MAP
成長戦略ばかり見ていると落とすものがあります。骨太の第3章と第2章の後半には、社会保障、教育、観光、外国人政策、防災庁、副首都といった、17分野に入らない政策が並んでいます。市場規模で言えば、こちらのほうが大きいものもあります。
70歳以上の医療費窓口負担について、原則3割の現役世代との間で年齢によらない応能負担を実現する観点から見直す、と書かれました。改革工程表は2026年末までに策定。介護保険の2割負担の判断基準は2026年度中に結論。OTC類似薬の保険給付見直しは施行後の状況を踏まえて2027年度以降に対象範囲の拡大を検討。先行バイオ医薬品の保険給付のあり方も見直しを検討します。保険が外れた薬をどこで買うのか、という話でもあります。
関連する上場企業の例ウエルシアホールディングス3141、ツルハホールディングス3391、マツキヨココカラ&カンパニー3088、小林製薬4967、ロート製薬4527、久光製薬4530、アインホールディングス9627、日本調剤3341
目標は据え置きで、地方誘客とオーバーツーリズム対策が並びます。政策ファイルによれば訪日外国人旅行者数は2025年で4,268万人(2015年1,974万人、2020年412万人)。在留外国人は413万人まで増えています。宿泊業を含む観光産業の強靱化が明記されました。
関連する上場企業の例東日本旅客鉄道9020、西日本旅客鉄道9021、日本航空9201、ANAホールディングス9202、オリエンタルランド4661、共立メンテナンス9616、藤田観光9722
電子渡航認証制度(JESTA)を2028年度中に導入し、在留許可手数料とJESTAの手数料収入で財源を確保して出入国在留管理庁の体制を強化する。不法滞在者ゼロプランの推進、外国人の土地取得等のルールの骨格を2026年夏に取りまとめ、重要土地等調査法の執行体制強化。入管のシステム更改とDXは、官公庁向けシステム各社の案件になります。
防災庁を設置し、地方機関として防災局を置く。国家社会機能継続性確保施策および副首都の整備に係る法案の成立を前提に、首都中枢機能の代替地域と副首都の整備を進める。リニア中央新幹線は最速2037年の全線開業に向けて財政投融資による支援も踏まえた指導・技術的支援。整備新幹線は未着工区間の早期整備。公共事業評価は費用便益比に過度に依拠せず総合評価へ見直し、近年の金利状況を踏まえて社会的割引率も見直す、と踏み込みました。
06 ── HOW TO USE
需要の出どころが国だと分かっている銘柄は下値が固い。これが格言の中身です。民間需要と違って景気で消えないし、予算という形で金額が公表される。ここまでは正しい。問題は、格言が正しくても売買が負けることがある、という点です。理由は時間軸です。
| 段階 | いつ | 何が分かるか |
|---|---|---|
| ① 方針 | 骨太・成長戦略の閣議決定(2026年7月21日) | やる分野は分かる。金額は分からない。株価はここで一番大きく動く |
| ② 金額 | 概算要求(8月末)→ 税制改正大綱(12月)→ 予算案の閣議決定(12月末)→ 国会(翌3月) | いくら付いたかが分かる。ここで期待とのズレが埋まる |
| ③ 受注 | 入札・採択・契約 → 各社の決算 | その会社の売上にいくら乗ったかが分かる。答え合わせ |
①で買われた株が②で失速し、③まで残る会社はさらに少ない。テラドローンの号で書いた「採択は量産受注ではない」という話と、構造はまったく同じです。政策テーマは、期待の段階と確定の段階が最大で1年半ずれます。
ここが一番手を抜かれやすいところです。100億円の実証予算は、売上5兆円の会社の株価には何も起こしません。同じ100億円が売上50億円の会社に入れば、業績の景色が変わる。ただし後者は、採択から外れたときの下げも同じ倍率で来ます。分母を確認せずにテーマだけで買うと、上がったときの理由も下がったときの理由も分からなくなります。
洋上風力の予算は、風車メーカーだけに落ちるわけではありません。基礎の据付工事、海底ケーブル、港湾の岸壁改良に相当額が流れます。ペロブスカイト太陽電池なら、パネルを作る会社と、その原料のヨウ素を握る会社では立ち位置が違う。次世代革新炉なら、炉を作る会社よりも先に、周辺機器と検査の会社に発注が出ることがあります。分野名で銘柄を選ぶと、この差が見えません。
例年なら②は単年度の話でした。今年は複数年度の計画に基づく措置が基本になり、基金の3年ルールにも例外が入り、要求上限が外れます。これは「来年も続くかどうか」の不確実性を減らす変更で、企業が設備投資を決めやすくなる方向に働きます。国策テーマを見るときに、補助金がいくら付いたかだけでなく、何年ぶんの計画として付いたかを確認する価値が出てきました。
07 ── CALENDAR
骨太に書かれた期限を拾って並べたものです。日付が明記されているものだけを載せています。最短のイベントは8月上旬です。
| 2026年 8月上旬まで | 「給付付き税額控除」とそのつなぎ(飲食料品の消費税率等)の方針決定。社会保障国民会議の中間とりまとめを踏まえる |
| 2026年 8月末 | 令和9年度の概算要求。『「強く豊かな日本」投資枠』はシーリングなし・事項要求可。租税特別措置・補助金・基金の自己点検結果を反映 |
| 2026年 夏 | 外国人の土地取得等のルールの骨格を取りまとめ |
| 2026年 内 | 三文書(国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画)の改定。これを踏まえて令和9年度予算を編成。予算編成の基本方針も改定し、補正と当初の区分の考え方を反映 |
| 2026年 内 | 労働力供給制約下の雇用保険制度のあり方について結論。機密性の高い情報を扱うクラウドの調達方法について一定の結論 |
| 2026年 末 | 70歳以上の医療費窓口負担の見直しに向けた改革工程表を策定 |
| 2026年度中 | 連立政権合意書の13の社会保障改革項目の制度設計。介護保険2割負担の判断基準の結論。外国人の受入れの基本方針。経済安全保障シンクタンク機能の構築。地理空間情報の第5期基本計画 |
| 2026年 12月 | 与党税制改正大綱。ガソリン暫定税率廃止の財源確保は令和9年度税制改正で結論 |
| 2026年 12月末 | 令和9年度予算案の閣議決定。ここで初めて金額が出る |
| 2027年 通常国会 | 予算成立。個人機微データの防護に関する法案、青少年インターネット環境整備法の改正案、原子力の保障措置枠組み強化のための法案などの提出を目指す |
| 2027年度 | 「責任ある積極財政元年」。中長期経済財政計画の計画期間が開始(2027〜2040年度)。新たな水田政策の創設。2027年度薬価改定。社会保障負担率は2025年度と比較して上昇させない方針 |
| 2027年 | 横浜グリーンエクスポ(GREEN×EXPO 2027) |
| 2027年度末 | 官公需における価格転嫁・取引適正化を100%実施 |
| 2028年度 | JESTA(電子渡航認証制度)の導入。医学部定員の削減は2028年度以降。技能五輪国際大会は2028年に日本開催 |
| 2029年度まで | 実質賃金で年1%程度の上昇をノルムとして定着。教師の時間外在校等時間を月30時間程度へ |
| 2030年 | 訪日客6,000万人・消費額15兆円。大学・専門学校のリ・スキリング人口 年60万人。高等教育のリバランス第1期の区切り。教職調整額は2030年度までに10% |
| 2030年度 | 官民研究開発投資 2026〜2030年度で180兆円(政府60兆円) |
| 2030年代前半 | 最低賃金の全国平均1,500円をできる限り早期に達成 |
| 2037年 | リニア中央新幹線の全線開業(最速) |
| 2040年度 | 国内投資250兆円。名目GDP1,100兆円に近づく。62品目への官民投資は累計370兆円超 |
08 ── RISKS
強気の材料として読むだけでは片手落ちになります。骨太2026には、投資家が警戒しておくべき箇所がいくつかあります。
投資枠の規模は「財政の持続可能性を実現しながら必要十分な規模を確保する」。国債発行額は「予算編成過程で検討する」。防衛費は三文書の議論を経て「予算編成過程において検討し、必要な措置を講ずる」。数字を決めるのは全部これからです。方針の段階で織り込まれた期待が、12月末の予算案で削られる可能性は普通にあります。
つなぎ国債は債務残高対GDP比やPBの計算から別枠で管理されます。財政の健全性を測る物差しの外に支出を置く仕組みなので、指標が改善していても実際の債務が同じペースで減っているとは限りません。金利が上がる局面で、市場がこの扱いをどう評価するかは未知数です。
本文は日本銀行に対し、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けた適切な金融政策運営を期待する、と書いています。積極財政と利上げが同時に進む局面では、長期金利、為替、株式のバリュエーションが同じ方向を向かないことがあります。国策テーマの株価は、テーマの中身より金利で動く日のほうが多い、という覚悟は要ります。
13の社会保障改革項目は、連立政権合意書(2025年10月20日)と、自由民主党・日本維新の会の社会保障制度改革協議体が2026年7月7日にまとめた骨子に基づいています。計画期間は2027年度から2040年度の14年。この間に政権の枠組みが変われば、優先順位も財源の考え方も変わります。長期計画ほど政治のリスクを内包している、というのは骨太に限った話ではありません。
ここまで否定的な材料を並べましたが、それでも今年の骨太は目を通しておく価値があります。理由は1つで、17分野・62品目という形で、政府が支援する対象がここまで具体的に文書化されたことがなかったからです。分野名ではなく品目名で書かれている。永久磁石、船舶修繕、解体選別技術、港湾荷役機械。この粒度で名指しされた文書は、そのまま企業のIR資料と照合できます。地図としての精度は、過去の骨太とは比較になりません。