SAKURA CAFE ・ 決算分析← レポート一覧
夕暮れの北海道の平野を横切る高圧送電鉄塔と送電線。左手に変電所のわずかな灯り、右半分は暗い空へ沈み込む

号外EXTRA EDITION

北海道電力

11月に電気料金を値上げ、同じ日に通期予想を上方修正

東証プライム・札証 9509 / 2026年9月25日開示 / 電気料金の見直しと2027年3月期業績予想の修正に基づく号外レポート

9月25日、北海道電力が同じ日に2枚の開示を出しました。1枚は「2026年11月1日から電気料金を値上げする」。もう1枚は「今期の業績予想を引き上げる」。値上げと増益、向きの違う2つに見えて、根っこは同じです。送配電子会社の託送料金が物価と金利の上昇を受けて上がり、その分を電気料金に反映する——それが両方の発表を貫いています。標準家庭のモデルで1か月あたり481円(+4.3%)の値上げ、通期の経常利益予想は300億円から460億円へ160億円(+53.3%)の上方修正。ただし前年度と比べれば、この460億円はなお減益の水準です。値上げの中身と、増益に見える理由を読みます。

電気料金(従量電灯B・30A・230kWh/月モデル)

+481円/月
11,115円 → 11,596円(+4.3%)2026年11月1日から適用(会社開示)

通期 経常利益予想(連結)

460億円
7月予想300億円 → +160億円増減率 +53.3%(会社開示)

通期 売上高予想(連結)

1兆250億円
7月予想9,700億円 → +550億円増減率 +5.7%(会社開示)
託送料金 ── 電気を運ぶ「送電網の利用料」
電気料金の中には、発電した電気を家庭や工場まで届ける送電線・変電所・配電線の利用料が含まれています。これを託送料金といい、送配電を担う一般送配電事業者(北海道では北海道電力ネットワーク)へ支払われます。託送料金は各社が勝手に決めるのではなく、経済産業大臣の承認を受けて設定されます。今回、物価や金利の上昇で送配電網の維持・更新にかかる費用が膨らみ、この託送料金が2026年11月1日から見直されます。
規制料金と自由料金 ── 電気料金には2種類ある
2016年の電力小売全面自由化のあとも、消費者保護のため従来からの規制料金(従量電灯B・Cなど、値上げに国の認可・届出が要る料金)が残っています。一方で自由化後に登場した自由料金(エネとくシリーズなど)は各社が柔軟に設定できます。今回は規制料金の変更を経済産業大臣へ届け出るとともに、低圧の自由料金・高圧・特別高圧の料金も同じ11月1日から託送料金の変動分を反映します。
経常利益 ── 本業のもうけに、財務の損益まで足したもの
営業利益は本業だけのもうけ、経常利益はそこに受取利息・支払利息など財務の損益を加えた、企業が経常的に稼ぐ力を示す利益です。電力会社は発電所や送電網に巨額の設備を持ち、借入も大きいため、金利の動きが経常利益に効きやすい業種です。今回の上方修正は、この経常利益が大きく動いた点に特徴があります。
燃料費等調整額 ── 燃料の高安を毎月映す仕組み
火力発電に使う原油・LNG・石炭の価格は日々動きます。その変動を数か月遅れで電気料金に自動で反映するのが燃料費等調整額です。燃料が上がれば料金に上乗せされ、下がれば差し引かれます。今回、会社は原油CIF価格の想定を1バレル85ドルから110ドルへ引き上げており、この燃料高の転嫁も売上を押し上げる一因になっています。今回の料金単価の見直しとは別の仕組みです。
DOE(株主資本配当率)── 配当額を株主資本に対する比率で決める考え方
1株当たりいくら払うか(配当性向は利益に対する比率)ではなく、株主資本に対して一定率を配当するという決め方です。利益が年ごとに振れても配当が安定しやすいのが特徴です。北海道電力はDOE1.8%を掲げており、今回の業績修正後もこの水準が変わらないため、配当予想は据え置かれました。

01 ── WHAT HAPPENED

同じ日に「値上げ」と「上方修正」。2枚はつながっている

9月25日、北海道電力は「託送料金の見直しに伴う電気料金の見直しについて」と「業績予想(連結)の修正に関するお知らせ」を同時に開示しました。前者は家庭や企業が払う電気料金を11月1日から上げるという発表、後者は今期(2027年3月期)の会社の売上や利益の見通しを引き上げるという発表です。

2つをつなぐのが託送料金です。北海道で送配電を担う北海道電力ネットワークが、物価や金利の上昇で膨らんだ送電網の維持費を反映するため、11月1日から託送料金を見直します。北海道電力(小売側)はその変動分を電気料金に転嫁し、あわせて会社全体の業績見通しも書き換えました。値上げのお知らせと、利益が増えるお知らせは、同じ出来事の表と裏です。

北海道電力ネットワークとは ── 送配電を担うグループの会社

2020年の発送電分離で、北海道電力の送配電部門は北海道電力ネットワーク株式会社として分社化されました。ただし北海道電力の連結子会社であることに変わりはなく、決算はグループとして合算されます。今回、値上げの「原因」である託送料金を上げるのはこのネットワーク会社、電気料金として消費者に「請求」するのは北海道電力(小売)、そして両者を合わせた連結の業績が上方修正された——という関係です。

02 ── YOUR BILL

標準家庭で月+481円。上がるのは、ほぼ「基本料金」

会社が示したモデルケースは、一般家庭でよく使われる従量電灯B・契約30A・使用量230kWh/月です。この条件で、電気料金は見直し前の11,115円から見直し後の11,596円へ、月481円(+4.3%)上がります(消費税・再エネ賦課金を含み、燃料費等調整額は含まない)。11月1日の使用分から適用されます。

中身を分けると、値上げのほとんどは基本料金に乗っています。30Aの基本料金は1,254円から1,716円へ462円上がる一方、電気の使用量に応じてかかる電力量料金は1kWhあたり0.08円しか上がりません。使った量ではなく、契約しているだけでかかる固定部分が主に上がる——これが今回の値上げの形です。送電網の維持費という「使っても使わなくてもかかる費用」の上昇を反映しているためです。

従量電灯B(規制料金・税込)見直し前見直し後増減
基本料金 10A(1契約)418円00銭572円10銭+154円10銭
基本料金 30A(1契約・モデル)1,254円00銭1,716円30銭+462円30銭
基本料金 60A(1契約)2,508円00銭3,432円60銭+924円60銭
電力量料金 最初の120kWhまで(1kWh)35円69銭35円77銭+0円08銭
電力量料金 120〜280kWh(1kWh)41円98銭42円06銭+0円08銭
電力量料金 280kWh超(1kWh)45円70銭45円78銭+0円08銭

月481円の内訳 ── ほぼ全額が基本料金の上昇

モデルの月481円の値上がりを分解すると、その大半は30Aの基本料金の上昇分(+462円)です。電力量料金の上昇分は、230kWhを使っても合計で約19円にとどまります(算出)。使う量を減らして節約しても効きにくい部分が上がる、という点は押さえておきたいところです。

1か月の値上げ額 +481円(従量電灯B・30A・230kWh) 基本料金 約462円 └ 電力量料金 約19円 再エネ賦課金・燃料費等調整額を除いた料金単価ベースの内訳(算出)

同じ11月1日から、低圧の自由料金(エネとくポイントプラン・スマートプランなど)、および高圧・特別高圧の料金にも託送料金の変動分が反映されます。料金以外にも、計量器の故障時の使用電力量の協議手続きや、料金未払い時の供給停止・解約の予告方法など、供給条件の一部が見直されます。会社は特設ページに影響額の試算ツールを用意しており、各家庭・各事業所ごとの実際の負担額はそこで確認できるとしています。

03 ── THE NUMBERS

7月からは上方修正。ただし前年度と比べればなお減益

会社は7月30日に出していた通期予想を、9月25日に引き上げました。売上高は9,700億円から1兆250億円へ550億円(+5.7%)、営業利益は480億円から610億円(+27.1%)、経常利益は300億円から460億円(+53.3%)、親会社株主に帰属する当期純利益は220億円から330億円(+50.0%)。1株当たり当期純利益は100.27円から153.83円へ上がりました。

ただし比べる相手を前年度(2026年3月期)に変えると、景色が変わります。売上高は前年の8,560億円から+1,690億円と増える一方、営業利益は前年732億円に対し△120億円、経常利益は前年613億円に対し△150億円、当期純利益は前年440億円に対し△110億円と、いずれも減益の見通しです。今回の上方修正は「7月に見込んでいたより良くなる」という話であって、「前年より良くなる」という話ではありません。

2027年3月期 通期(連結・百万円)前回予想 (A)今回予想 (B)増減 (B−A)増減率前期実績
売上高970,0001,025,000+55,000+5.7%855,983
営業利益48,00061,000+13,000+27.1%73,238
経常利益30,00046,000+16,000+53.3%61,348
当期純利益22,00033,000+11,000+50.0%43,998
1株当たり当期純利益100.27円153.83円+53.56円──207.40円

経常利益の位置(連結・億円)

前期実績は2026年3月期、7月予想は7月30日開示、今回予想は9月25日開示

前期実績・7月予想 今回予想(上方修正後)
0 200 400 600 613 300 460 前期実績 7月予想 今回予想(9/25)
北海道電力「2026年度 連結業績予想の修正について」(2026年9月25日)。金額は億円未満を四捨五入。7月予想からは大きく引き上がったが、前期実績613億円には届かない。

04 ── WHY IT RISES

値上げなのに増益? 連結ならではの仕組み

家計から見れば電気代が上がるのに、会社の利益も増える——これは連結決算の見方を知ると腑に落ちます。会社は増収・増益の理由を3つ挙げています。

売上が550億円増える理由

  • 託送料金の見直しの反映:送配電子会社の値上げ分を電気料金に転嫁するため、受け取る料金が増える。
  • 燃料費等調整額の増加:原油CIF価格の想定を85ドル→110ドルへ引き上げ。燃料高を料金に上乗せする分が増える。
  • 他社販売電力料の増加:他の電力会社への販売分が伸びる。

経常利益が160億円も増える主因は、このうち託送料金の見直しです。託送料金は小売部門にとっては送配電会社へ払う「費用」ですが、その送配電会社(北海道電力ネットワーク)はグループの一員です。連結では、物価や金利の上昇で膨らんだ費用を規制の枠組みで回収する送配電事業の収益改善が、そのまま経常利益を押し上げます。小売部門はその上昇分を電気料金に転嫁するので、連結の売上も同時に膨らむ——値上げと増益が両立するのはこのためです。

増収の「質」に注意 ── 利益率は前年より薄い

売上が1,690億円も前年から増える見通しなのに、営業利益はむしろ前年から120億円減る計画です。増収の多くが、燃料高や託送料金という費用の増加を料金へ転嫁したものだからです。売上は膨らんでも、それに見合う費用も膨らむため、利益率は前年より薄くなります。「増収」の数字の大きさだけで会社が好調と読むのは早計で、前年に対しては減益が見込まれている点を忘れないようにしたいところです。

前提の置き方 ── 為替と原油

今回の予想は、為替レート160円/ドル、原油CIF価格110.0ドル/バレルを前提に置いています(会社は9月以降を為替160円/ドル、原油105ドル/バレル程度と想定)。原油の想定は7月時点の85ドルから引き上げられました。小売・他社販売電力量は379億kWhで7月見通しと同程度です。前提が動けば、実際の業績は予想と変わり得ます。

05 ── DIVIDEND

配当は据え置き。DOE1.8%の方針を維持

業績予想を引き上げましたが、配当予想は変わりません。会社は配当をDOE(株主資本配当率)1.8%を基準に決めており、修正後の業績で計算し直しても従来公表の水準と同じになるため、前回予想からの変更はないと説明しています。利益の増減で配当が振れにくいのがDOE基準の特徴で、今回はそれがそのまま表れた形です。

1株当たり配当金(普通株式)中間期末年間
2025年度(実績)15円00銭17円00銭32円00銭
2026年度(予想・変更なし)16円50銭16円50銭33円00銭

年間では前年度の32円から33円へ1円の増配予想で、この見通しは今回の修正後も据え置かれています。なおB種優先株式の配当予想は年間300万円(中間・期末各150万円)で、こちらも変更ありません。

06 ── SUMMARY

1枚の託送料金値上げが、家計と決算の両方を動かした

数字で確認できること

  • 電気料金は11月1日から値上げ。標準家庭モデルで月+481円(+4.3%)。
  • 値上げの大半は基本料金(30Aで+462円)。使用量に応じた部分はほぼ横ばい。
  • 通期予想を上方修正。経常利益は300億→460億円(+53.3%)、売上は1兆250億円へ。
  • 配当はDOE1.8%維持で据え置き。年間33円予想(前年32円)は変わらず。

見ておきたいこと

  • 上方修正はあくまで7月予想比。前年度比では営業・経常・純利益とも減益見通し。
  • 増収の多くは燃料高・託送料金の費用転嫁で、利益率は前年より薄い。
  • 経常利益の押上げは、グループ送配電事業の規制収入の改善による。
  • 為替160円/ドル・原油110ドル/バレルの前提。前提が動けば業績も動く。

号外の視点 ── 「値上げ」と「増益」を同じ根から読む

今回の2枚の開示は、別々の出来事ではありません。物価と金利の上昇で送電網の維持費が膨らみ、それを託送料金→電気料金という形で消費者へ、そして連結決算では送配電事業の収益改善という形で会社の利益へ、同時に流れ込んだ結果です。家計にとっては負担増、会社にとっては増収増益。ただしその増益は前年に届かず、増収の中身も費用の転嫁が中心という、手放しでは喜べない内容でもあります。電気料金の値上げニュースを見たら、その裏で電力会社の決算がどう動くかまで一緒に見ると、数字の意味がつながって見えてきます。次に確かめたいのは、値上げが実際の使用量や離脱にどう響くか。それが表に出るのは、11月以降の決算からです。

レポート一覧へ戻る →