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薄暗いホールに置かれた真鍮の天秤

号外EXTRA EDITION

日銀、1.25%へ

7対2の利上げと、反対に回った4人の意味

9月18日の金融政策決定会合 / 政策金利を1.00%→1.25%に引き上げ / 前回の利上げから3か月/ 適用は9月24日から

日銀は9月18日の金融政策決定会合で、政策金利を1.00%から1.25%へ引き上げました。決定文の公表は11時54分。前号で「市場はほぼ100%織り込んでいる」と書いたとおり、上がったこと自体は想定の範囲です。 見るべきところは別にあります。票が7対2で割れたこと。そして賛成した7人のうち2人も、物価の見通しには反対していたことです。9人の委員のうち4人が何かしらに異を唱え、しかもその向きが正反対でした。 この号外では、日銀の公表文2本だけを材料に、何が決まり、日銀が何を心配しているのかを読み解きます。前号の問いへの答え合わせも最後に置きました。

政策金利(無担保コール翌日物)

1.25%程度
+0.25%従来は1.00%程度・9月24日から適用

政策委員会の採決

72
浅田委員・佐藤委員が反対いずれも据え置きを主張

前回利上げからの間隔

3か月
6月16日の1.00%からマイナス金利解除後で最短
補完当座預金制度の付利 ── 銀行が日銀に預けたお金に付く金利
銀行は日銀に当座預金口座を持っていて、そこに置いた資金(法律で積むよう求められている分を除く)に日銀が利息を払っています。これが付利です。今回これも1.25%に上がりました。銀行は日銀に預ければ1.25%を受け取れるので、それより低い金利で他の銀行に貸す理由がなくなる。政策金利を1.25%程度に誘導するための、いわば床の役割をしています。
基準貸付利率 ── 日銀が銀行に貸すときの金利
銀行が資金に困ったとき、担保を差し出せば日銀から借りられる仕組み(補完貸付制度)の金利です。今回1.5%に決まりました。銀行は1.5%を払えば日銀から借りられるので、市場でそれより高く借りる必要がない。付利が床なら、こちらは天井です。1.25%の床と1.5%の天井の間に、翌日物の金利が収まるよう設計されています。
基調的な物価上昇率 ── 一時的な上下を取り除いた、物価の地力
原油高や生鮮品の値動きのように、上がってもすぐ剥がれる要素を除いた物価の傾向です。日銀は今回の公表文で、これが2%に近づいていると書きました。一方で、目に見える消費者物価(生鮮食品を除く)は足もとで1%台後半。見える数字はまだ2%を下回っているのに、地力は2%に迫っている、というのが日銀の見立てです。反対票の理由もこのずれに関わっています。
展望レポート ── 日銀が年4回出す、経済と物価の見通し
正式には「経済・物価情勢の展望」。1月・4月・7月・10月の会合で公表され、成長率と物価の見通しを数字で示します。今回の公表文は、経済と物価が展望レポートの中心的な見通しに概ね沿って推移していると書いています。見通しどおりに進んでいるから、予定どおり金利を上げた。今回の判断はこの一文に要約されます。次の展望レポートは10月の会合で出ます。

01 ── WHAT WAS DECIDED

決まったのは、金利3本と制度の手直し

公表文の1番目と2番目は金利の話です。政策金利を0.25%上げ、それに合わせて床にあたる付利と天井にあたる基準貸付利率も動かしました。3本とも適用は翌営業日の9月24日からです。

項目決定内容採決役割
政策金利(無担保コール翌日物)1.00%→1.25%程度7対2日銀が誘導目標として直接動かす金利。変動型ローンや預金金利の起点
補完当座預金制度の付利1.25%7対2銀行が日銀に預けた資金に付く金利。翌日物の床
基準貸付利率1.5%7対2日銀が銀行に貸す金利。翌日物の天井。基準割引率も1.5%
気候変動対応オペ変動金利化・上限設定全員一致貸付金利を変動金利に変え、貸付総額などに上限を設ける
被災地金融機関支援オペ貸付金利を見直し全員一致東日本大震災は2027年5月の貸付をもって対象災害から外す

下の2行は見落とされがちですが、意味はつながっています。気候変動対応オペは、日銀が民間の脱炭素向け投融資を支えるために銀行へ資金を貸す制度です。これまでの貸付条件のまま政策金利だけが上がると、銀行は安い日銀資金を借りて、1.25%の付利が付く当座預金に置いておくだけで利ざやが取れてしまう。貸付金利を変動にして上限も付けたのは、金融調節の円滑な運営を確保しつつ、と公表文にあるとおり、金利を上げる局面に制度を合わせる手直しです。共通担保資金供給オペも同じく貸付金利を見直しました。

9月24日から、という日付の意味

決定は18日(金)ですが、新しい金利が効き始めるのは翌営業日の24日(木)です。間に土日と祝日の連休が挟まるため、効き始めは連休明けになります。銀行が預金や変動型ローンの金利を見直すのは、この日付を受けてからになります。各行の対応は、それぞれの発表を待つしかありません。

02 ── WHY NOW

見通しどおりに進んだから、予定どおり上げた

利上げの理由を、公表文は3段で説明しています。景気は緩やかに回復している。物価は基調として2%に近づいている。それなのに金融環境はまだ緩和的だ。だから緩和の度合いを調整する、という順番です。

物価 ── 上がる力が川下まで届き始めた

  • 原油高と円安に加え、AI関連需要の拡大で、国内企業物価(企業間の取引価格)は前年比で高い伸びが続いている
  • その上昇圧力が消費者段階にも波及し始めた
  • 賃金上昇を販売価格に転嫁する動きも続いている
  • 中長期の予想物価上昇率は引き続き上昇

景気 ── 弱い部分はあるが、崩れてはいない

  • 中東情勢の影響で一部に弱めの動き。それでも緩やかに回復
  • AI関連需要を背景に、輸出と鉱工業生産は増加に転じた
  • 企業収益は高水準、設備投資は緩やかな増加傾向
  • 個人消費は家計マインドに弱さがあるが底堅い。住宅投資は減少傾向

金融環境は、まだ緩和している

3段目がいちばん短く、いちばん効いている部分です。公表文は、実質金利は短中期ゾーンを中心になお低い水準だと書きました。企業の資金需要は増え、銀行の貸出態度は積極的で、CPや社債の発行環境も良好だと。

数字で確かめると分かりやすい。政策金利1.25%に対して、消費者物価(生鮮食品を除く)の前年比は足もとで1%台後半です。金利から物価上昇率を引いた実質金利は、利上げ後もまだマイナス圏にある計算になります。お金を借りて何かを買うほうが、持っているより得な状態が続いている。日銀が「政策金利の変更後も、緩和的な金融環境は維持される」と書いたのはこのためです。

新しく入った一文 ── 2%を超えて上振れていくリスク

リスクの書き方に注目してください。公表文は中東情勢、AI関連需要、為替の変動を挙げたうえで、基調的な物価上昇率について2%の物価安定の目標を超えて上振れていくリスクがあると明記しました。さらに今後の運営の段落では、そのリスクが顕在化して経済に悪影響を及ぼさないよう、基調的な物価上昇率を2%程度の水準で安定させていくという観点が重要だとしています。前号で紹介した植田総裁の「上振れリスクにこれまで以上に注意して」という発言が、そのまま公式文書の言葉になった形です。2%に届くかどうかを心配していた日銀が、2%を超えすぎることを心配し始めている。

03 ── THE VOTE

9人のうち4人が、正反対の向きに異を唱えた

今回の会合でいちばん情報量が多いのは、公表文の末尾にある注記です。政策金利の変更には浅田委員と佐藤委員が反対しました。ところが別紙の物価見通しには、利上げに賛成した高田委員と田村委員が反対しています。据え置くべきだという2人と、物価の見方がまだ甘いという2人。

政策委員9人の立ち位置

金融市場調節方針の変更(利上げ)と、別紙の物価見通しへの賛否

利上げ・見通しとも賛成 利上げ賛成・見通しには反対(物価はもう目標水準) 利上げに反対(据え置きを主張)
より慎重(ハト派寄り) より積極的(タカ派寄り) 浅田佐藤 植田氷見野内田小枝 高田田村 利上げに反対 2人 賛成 5人(総裁・副総裁2人を含む) 見通しに反対 2人
日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2026年9月18日)本文と別紙の注記をもとに作成。左右の並びは当方による整理で、各委員の公式な位置づけではない。賛成5人の並び順に意味はない。

据え置き派の2人 ── まだ急ぐ局面ではない

  • 浅田委員:足もとの消費者物価(生鮮食品を除く)の上昇率が2%を下回り、経済も必ずしも強いとはいえない。だから据え置きが望ましい
  • 佐藤委員:経済・物価情勢は、これまでと比べて大きく加速している状態にあるわけではない。このタイミングでの利上げは適切ではない

積極派の2人 ── 物価はもう目標に着いている

  • 高田委員:基調的な物価上昇率を含め、消費者物価は既に概ね物価安定の目標に達する水準にある
  • 田村委員:基調的な物価上昇率は、目標と既に概ね整合的な水準で推移している

2つの反対は、同じ数字を別の角度から見ています。浅田委員が根拠にしたのは、目に見える消費者物価がまだ2%を下回っていること。高田・田村両委員が根拠にしたのは、一時的な要因を除いた地力がもう2%にあること。日銀の多数派は「2%に近づいている」と、その中間に立っています。

高田委員は、前号で紹介した9月2日の会見で「連続になることも一般論としてあり得る」と述べた委員です。7月会合で唯一、据え置きに反対した委員でもある。その高田委員が今回は利上げに賛成し、そのうえで見通しがまだ甘いと言っている。今回の0.25%でも、この2人にとっては足りていないと読めます。

票割れの向きが、次の会合の読みにくさを作る

反対が片側だけなら、次の一手の方向ははっきりします。今回は両側に2人ずつ。据え置き派は物価がまだ弱いと言い、積極派はもう十分強いと言う。この先の物価統計が1%台後半のまま動かなければ据え置き派の声が強まり、2%をはっきり超えてくれば積極派の見方が多数派になる。日銀自身は、消費者物価が2026年度後半以降に2%をはっきり上回る水準まで伸びを高めると予想しています。それが当たるかどうかで、次の利上げの時期が前にも後ろにもずれる。

04 ── PATH AHEAD

「引き続き引き上げ」と、日銀は書いた

今後の運営方針について、公表文の書きぶりははっきりしています。基調的な物価上昇率が2%に近づき、金融環境が緩和的であることを踏まえると、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく。利上げはまだ終わりではない、ということです。

政策金利の推移と、終着点までの距離

無担保コール翌日物の誘導目標 / 9月18日の決定で1.25%へ

0% 0.5% 1.0% 1.5% 2.0% 2024/3 24/7 25/1 25/12 26/6 26/9 ターミナルレート 1.75〜2.0%(木内氏の見方) 1.25%(9月18日決定) 1.00% マイナス金利解除
2024年3月から2026年6月までの利上げ時期と誘導目標は、本誌前号に記載の各社報道による整理。2026年9月は日本銀行の公表文による。ターミナルレートの1.75〜2.0%は野村総合研究所 木内登英氏の見方(前号で紹介)であり、日銀が公表した目標ではない。

ただし、いつ・どの速さでという点については慎重な言い方を残しています。調整のタイミングやペースは、中東情勢、AI関連需要の拡大、為替相場の変動の影響を含め、見通しが実現する確度やリスクを点検しながら検討していく。次の会合での利上げを約束する言葉は、どこにもありません。

日銀が挙げたリスク向き公表文の書き方
中東情勢両面春先以降の原油高が景気の下押し要因。同時にエネルギーや財の価格を押し上げる。当面とくに注視が必要と明記
AI関連需要両面輸出・生産・企業収益を支える一方、半導体価格などの上昇を通じて物価を押し上げる
為替相場物価を押し上げ最近の円安が耐久財などの値上がりにつながると見ている
基調的な物価上振れ企業の賃金・価格設定の積極化と予想物価上昇率の上昇で、2%を超えて上振れていくリスク

並べてみると、景気を冷やす方向のリスクより、物価を押し上げる方向のリスクのほうが多く書かれています。原油高だけが両面に効き、残りはどれも物価を上に押す。見通し期間の後半には、原油高の影響が薄れて消費者物価の伸びは2%程度に向けて縮まる、とも書いています。ただ、そこに至るまでの2026年度後半に2%をはっきりと上回ると予想している以上、それまでの間に金利を据え置き続ける展開は考えにくい。これは公表文からの当方の読みです。

05 ── CHECK

前号の問いに、今回の決定が答えたこと

9月3日の前号「利上げペース、加速へ」では、会合前にいくつかの問いを置きました。決定文で答えが出たものと、出ていないものを分けておきます。

前号の問い結果決定文から分かること
9月会合で上がるか上がった1.00%から1.25%へ。市場の織り込みどおり
上げ幅は0.25%で収まるか0.25%高田委員が示唆した刻みの変更はなかった。刻みは従来どおり
3か月での連続になるかなった6月16日から3か月。マイナス金利解除後の利上げ間隔では最短
次の道筋をどう書くか継続を明記「引き続き政策金利を引き上げ」。ただし時期とペースは点検しながら
原油高は10月頃にピークか未確定日銀は原油高の影響が見通し期間後半に減衰すると見る。時期は明示していない
加速は次の2回までか未確定今回が1回目。10月・12月の会合で2回目があるかが次の焦点

刻みが0.25%で収まったことの意味

前号では、高田委員の「0.25%刻みも必ず決まっているようなものではない」という発言を取り上げ、いつ上げるかに加えて、いくら上げるかが読み切れないと書きました。今回は0.25%でした。高田委員は利上げには賛成しつつ、物価見通しに反対するという形で意見を残しています。上げ幅で意見を通すのではなく、見通しへの反対票で記録に残す。この選び方を見ると、少なくとも今回、日銀の多数派が刻みを変えることには乗らなかったことが分かります。ここは断言できます。

06 ── WHAT'S NEXT

次に出てくる4つの日付

決定は出ましたが、中身が分かる材料はこの先に順番に出てきます。特に10月1日の「主な意見」は、反対した4人がどこまで踏み込んだ議論をしたかが初めて分かる資料です。

日付出てくるもの見どころ
9月24日(木)新しい金利の適用開始政策金利・付利・基準貸付利率が一斉に切り替わる。銀行の預金・変動型ローン金利の見直しはここから
10月1日(木)8:50主な意見9人の意見の要旨。次の利上げの時期について、据え置き派と積極派がそれぞれ何を言ったか
10月29〜30日次回会合・展望レポート見通しの数字が改めて出る。2026年度後半に2%をはっきり上回るという予想が維持されるか
11月5日(木)8:50今回会合の議事要旨議論の流れの詳細。政府からの出席者の発言もここで分かる

家計と企業に効いてくるのは、発表日ではなく適用日から

前号で整理したとおり、政策金利が効くのは銀行の利ざや、変動型の住宅ローン、預金金利、企業の短期借入です。今回の0.25%もこの経路で効いていきます。変動金利で借りている人の返済額が実際に変わるのは、各銀行が基準金利を見直し、それがそれぞれの契約の改定時期にかかってからです。前号でも書いたように、3か月間隔の利上げでは、6月の利上げの影響がまだ数字に出きらないうちに今回の分が重なります。日銀自身が、実質金利はなお低く金融環境は緩和的だと書いている以上、この重なりはもう少し続く前提で考えておくほうが自然です。

07 ── SUMMARY

分かったこと、まだ分からないこと

今回の決定で分かったこと

  • 政策金利は1.00%→1.25%。付利1.25%、基準貸付利率1.5%。適用は9月24日から。
  • 採決は7対2。浅田委員と佐藤委員が据え置きを主張して反対。
  • 利上げに賛成した高田委員と田村委員は、物価は既に目標水準にあるとして見通しに反対。
  • 公表文に、基調的な物価が2%を超えて上振れていくリスクが明記された。
  • 今後も引き続き政策金利を引き上げる方針。実質金利はなお低いと日銀自身が書いている。

まだ分からないこと

  • 次の利上げが10月か12月か、それとも年明け以降か。公表文は時期を示していない。
  • 消費者物価が日銀の予想どおり2026年度後半に2%をはっきり超えるか。
  • 中東情勢と原油価格がいつ落ち着くか。景気の下押しと物価の押し上げ、どちらが先に効くか。
  • 反対した4人が会合でどこまで踏み込んだか。10月1日の主な意見を待つ必要がある。

号外の視点 ── 心配の向きが変わった会合

1.25%という数字は、前号の時点でほぼ見えていました。今回の決定文で新しかったのは数字ではなく、日銀が何を心配しているかです。これまで日銀が繰り返してきたのは、2%の目標に届くかどうかの話でした。今回の公表文は、2%を超えて上振れていくことを心配し、2%程度で安定させることを重視すると書いています。心配の向きが、下から上に変わった。 そのうえで、委員会の中では据え置き派と積極派が両側から反対票を投じています。多数派の7人は、その真ん中で「引き続き引き上げ、ただし点検しながら」という道を選んだ。次の一手がいつになるかは、10月の展望レポートの数字と、10月1日に出る9人の発言でかなり絞れるはずです。その時点で、また号外で扱います。

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